*PRS SANTANA SE  ー黒船出現! 驚愕のOEM製品ー

2001年。21世紀の到来とともに、日本のギター業界に概念を覆す“黒船”が現れました。

大げさな表現かとも思いますが、私は現物を手にしたとき、率直にそう感じました。

ハイクォリティギターの代名詞であった Paul Reed Smith(以後 PRS)が放つ、初の廉価版ギターであること。SANTANA の銘を冠したシグネイチャーモデルであること。そして韓国を生産国とした OEM製品であったこと。全てが類の無い新しい展開で現れたのです。

SANTANA SE Ver.1

Paul Reed Smith SANTANA SE Ver.1

 

<仕様>

ネック:マホガニー

指板 :ローズウッド 22フレット

スケール:25 インチ

ジョイント:セットネック

ボディ:マホガニー

ピックアップ:PRS Designed ×2

コントロール:1 Volume 1 Tone

ペグ :PRS Designed

ブリッジ:PRS Designed 

ハードウェア:ニッケル(ペグを除く)

カラー:Vintage Cherry、Royal Blue

    Teal、Gray Black

カタログ掲載期間:2001~2002

Fender Japan や Orvill by Gibson 等、2大ブランドの国産OEM製品の特徴は、廉価版を謳いながらも本国製を忠実に再現し、遜色ないクォリティを有していることでした。

 

それに対し SANTANA SE は、ブランドの象徴であった高級材を一切使わずに、PRSギターの性能的な長所を高度に集約した、実用と基本性能に徹した設計が採用されていたのです。PRS ギターのラインナップに例えるのであれば、

McCarty モデルをベースに、ボディをマホガニー単板のフラットトップにして、オリジナルのビブラートユニットを搭載(あるいはストップテイルとの選択)した仕様と言えるでしょう。装飾は極限まで省かれ PRS のブランドロゴすらありませんが、何故かポジションマークだけは他のモデルには無い、オリジナルデザインが採用されています。

 

聞けば PRS は、当初 OEM先として日本のメーカーともコンタクトを取ったそうですが、何らかの事情で契約に至らなかったとのこと。国産化が叶わず、残念に思いました。

本生産の前に手直しがあったらしく、カタログのギターはリアピックアップの位置が若干フロントピックアップ寄りで、ビブラートユニットとの間隔が広いことが分かります。

追記:いま思えば、ここを GR(ギターシンセ)の PU をマウントするスペースに、活用

   できたかもしれませんね。この仕様が市販されていたらの話ですけれどね(笑)。

私が実際に使用した所感では、音色・演奏性ともに“これで十分”と思えるものでした。

Carlos Santana が掲げた「ビギナーにも手の届く価格でありながら、生涯を通して使えるギター」というコンセプトは、見事に具現化されていると感じます。特に PRSストップテイルを装備したモデルを調整すると実感するのですが、前後の調整を行うだけで各絃のオクターブまでほぼバッチリと合ってしまうのには、驚嘆させられてしまいます。

本当に精度の高い設計と、それを遵守させた生産が行われているのですね。

毎度のことですが、使い始めてみると色々な所感は出てくるものなので、列記します。

1.ビブラートユニットが全体を浮かせる “フル・フローティング式” のため、おそらく

  ビギナーには使いこなし(特にセッティング)が最も難しい部類に入ると思う。

  ストラト等でセッティングの経験を積んでいれば別だが、高性能なだけに惜しい。

2.ペグにロッキングタイプが採用されていないのは残念。PRS の高性能ビブラートユニ

  ットとは一対のようなものなので、価格が 5,000円上がってもよいから搭載して欲し

  かった。→ 私は Gotoh製のロッキングタイプに交換。これについては後述。

3.電装系、特にセレクタースイッチの強度とジャックの精度がもう少しというところ。

4.全体に塗膜が厚め。ポリウレタン系でも薄めの塗膜を実現しているメーカーもあるの

  で、ここは頑張って欲しかった。数百グラムは軽量化できるかもしれないので。

これらは欠点というほどのものではないので、念のため。それが証拠に SANTANA SE に惚れ込んだあまり、私はこの後 Ver.3まで各モデルを揃えてしまったのですから(笑)。

SANTANA SE 発売時の GM誌には、マスブチケンジ氏をモニターとした試奏記事が掲載され、それは後に KID(KORG社)のthe PRS dictionary というパンフレットに編集されて再掲載されました。

PRSギターの構造や歴史など紹介されており、今日のようにムック本が登場する以前には、PRSギターの概要を知る資料としてたいへん重宝しました。

<Ver.1 発売当時の Guitar Player誌 AD>

SANTANA SE Ver.2

Paul Reed Smith SANTANA SE Ver.2

 

<仕様>

ネック:マホガニー

指板 :ローズウッド 22フレット

スケール:25 インチ

ジョイント:セットネック

ボディ:マホガニー

ピックアップ:PRS Designed ×2

コントロール:1 Volume 1 Tone

ペグ :PRS Designed

ブリッジ:PRS Designed 

ハードウェア:ニッケル(ペグを除く)

カラー:

カタログ掲載期間:2003~

SANTANA SE Ver.1 は傑出したコスト&パフォーマンスを誇ったモデルでしたが、発売当初から“地味すぎて花の無いギター”というレッテルがついてまわったようです。

特に Carlos 本人が使用する PRSギター とのイメージの乖離はとても大きいですよね。

私はそんなことは全く気にならず、返ってそのスパルタンな仕様を歓迎した方でしたが…

そんな理由で PRS も、装飾を中心に手を加えたモデルを Ver.2 として発表しました。

主な変更点は、

1.ネック~ヘッドにかけて、セルバインディングを追加。

2.ボディトップにエルボーコンター、バックにウエストコンターを追加。

3.ピックガードを追加。

4.ピックアップをオープンタイプに変更し、若干のパワーアップを施した。

5.カラーラインナップを一新し、サンバーストや鮮やかなソリッドカラーで構成した。

6.トラスロッドカバーに PRS のブランドロゴが入った。

私から見れば「別にいいのになぁ~」と思う変更ばかりでしたが、明るくメリハリの効いたラインナップに一新したので、確かにビギナー層の受けは上がったと思われます。

ピックアップがオープンタイプになったことでサウンドもブライトになり、見た目どおりのロック&ポップ志向の高まったギターに変身を遂げました。

<Ver.2 発売当時の Guitar Player誌 AD>

SANTANA SE Ver.3

Paul Reed Smith SANTANA SE Ver.3

 

<仕様>

ネック:マホガニー

指板 :ローズウッド 22フレット

スケール:24.5 インチ

ジョイント:セットネック

ボディ:メイプルトップ

   (フレイムベニア・ラミネイト)

    マホガニーバック

ピックアップ:PRS Designed ×2

コントロール:1 Volume 1 Tone

ペグ :PRS Designed

ブリッジ:PRS Designed 

ハードウェア:ニッケル(ペグを除く)

カラー:

カタログ掲載期間:

Ver.2 が登場した時からいずれ “完コピ版” が出るのでは? という予感はありましたが、現実に、それもほぼ想像どおりのモデルが発売された時には、さすがに私も驚きました。

Ver.1~2 までの PRS 基本系路線ではなく、SANTANA Model のドンズバ(に近い)仕様こそが、ユーザーが求めていた SANTANA SE の到達点だったのでしょうね。

さてこの Ver.3 は、SE の要素を残したまま SANTANA Model に近づけたというか、良い意味で SANATANA SE と SANTANA Model の“中庸”にまとまっていると思います。

<SANTANA SE からの流れ>

1.ヘッドの形状

2.フレット数(SANTANA SE は 22フレット。SANTANA Model は 24フレット)

3.ピックアップの位置やコントロール・サーキットのパターン

<SANTANA Model からの流れ>

1.全体のデザイン(ボディシェイプや塗色)

2.ネックのスケール(24.5インチという SANTANA Model 独自のスケールを再現)

3.指板のバードインレイ・ポジションマーク

実際に弾いてみた感触としては「SE もついにここまで来たか!」という感激というか感心というか、もうこれで十分なんじゃない? っていう完成度を感じたことです。ビギナー用というより、熟練ギタリストが普通に使っても、何の問題も無い出来映えと思います。

正直、シンクロナイズド系トレモロを装備したギターで、これだけサスティンが得られるものとは想像できませんでした。メイプルトップの効果か Ver.1~2 より更に伸びます。

でもこの形状とこの仕様は、やはり Carlosフリークのためにあるのでしょうね。

いかにも SANTANA コピーバンド御用達というか、他のジャンルに使うにはちょっと…

SANTANA SE Ver.1~2 のデザインが、演奏者に SANATANA への固執を意識させないものに落ち着けてあるということが、Ver.3 を手にするとよく分かるような気がします。

私はこの Ver.3 に、プチモデファイを施しました。ペグを Gotoh製のマグナムロックに換装し、配線はノーマルながらポット・スイッチ・ジャックを全交換。ノブも国産品で、古色(アンバー)の着色がされていない、ノーマルのバレルノブに交換してあります。

これは色が気に入らなかったのと、ノブが製品のままでは低すぎたためです。

<Ver.3 発売当時の Guitar Player誌 AD> ※右側の AD はオマケです。

SANTANA SE Ver.4

Paul Reed Smith SANTANA SE Ver.4

 

<仕様>

ネック:マホガニー

指板 :ローズウッド 24フレット

スケール:24.5 インチ

ジョイント:セットネック

ボディ:メイプルトップ

   (フレイムベニア・ラミネイト)

    マホガニーバック

ピックアップ:PRS Designed ×2

コントロール:1 Volume 1 Tone

ペグ :PRS Designed

ブリッジ:PRS Designed 

ハードウェア:ニッケル(ペグを除く)

カラー:

カタログ掲載期間:

Ver.3 を入手以来、このギターの変遷への興味を失ってしまったというか、使うのはもっぱら Ver.1~2 に限定されてしまったので、その後どう変わっていったのか、現在も販売継続中なのかは知りませんでした。別項で Santana の Les Paul について更新したのをきっかけに SANTANA SE についても調べてみたら、Ver.4 があったのでチェックしました。Ver.3 をもって “完コピ版” ではなく “ほどほど版” で完結と思っていたら、おそらく不満が出たのかセールスに影響したのでしょう。一段と “完コピ接近版” なっていますね。

さてこの Ver.4 は、Ver.3 からSE の要素をヘッドデザイン以外払拭させたと言ってよいでしょう。Ver.3 の項で SANATANA SE と SANTANA Model の“中庸”部分について触れましたが、ここではもう特に触れる必要はありませんね。デザイン的に SANTANA Model

#3 ほぼそのとおり。ヘッド形状やロッキングペグ、PUやトップ材の仕様については、言わずもがなですね。私が SANTANA SE に入り込んだのは Ver.1 に Carlos Santana の思想を感じた、つまり SE は Student Edition なわけで、それが Ver.1 の仕様なわけです。

Ver.3 からは、初心者全般から Carlos Santana のファンでオリジナルモデルに手の届かない方向けのギターに路線が変わって、ここで完結を迎えたのでしょう。

お断りしておくと、私が述べたのはギターの仕様であって品質とは全然関係ありません。

Ver.3 で述べたとおり、価格以上の優れたギターだと思っていますよ。

SANTANA SE Ver.1~3 と Gotoh Magnum Lock

Ver.1 の項で、ペグを Gotoh製 マグナムロック(Magnum Lock:以後 MG) へ換装することについて触れましたが、私は基本的に PRSビブラートユニットを搭載したモデルにはこの Gotoh MG を標準装備することにしています。

本来 PRSギターには、オリジナルのロッキングシステムの付いた Schaller製の特注ペグが搭載されていますが、これは非売品なので諦めざるを得ません。その点 Gotoh製のペグは Schaller製に勝るとも劣らない性能を誇るうえ、独自のロッキングシステム MG があり、さらにツマミ(Button)も Schaller製に近似したモデルが用意されているため、外観のイメージを全く損なうことがありません。そのうえ Santana SE に搭載された韓国製のペグは、Schaller製と異なるハウジングと止めネジ穴を持っているのに対し、Gotoh製ではそれにも対応可能なハウジングを選べてしまうのですから、全く恐れ入ってしまいます。

正に至れり尽くせり。さすが Made in Japan。ハードウェアメーカーの鑑(かがみ)です。

さてそんな優れた Gotoh MG ですが、残念ながらスタンダードモデルである SGM では、装着可能な機種は Ver.3 のみに留まってしまいます。その原因は、Santana SE Ver.1~2 のヘッドが標準より厚いことにあって、ストリングポストの高さが足りず、表からナットを締めることもできません。これを解決するためには MG に加えてストリングポストの高さ調整機構の付いた H.A.P.機能(Height Adjustable Post)が必要で、これら全てを備えたモデル SG503HAPM を使うことによって、Santana SE Ver.1~2 に世界最高レベルのロッキングシステムを搭載することが可能となります。

説明が文章ばかりで申し訳ありませんが、Gotoh製ペグは種類が潤沢で適用範囲が広くありがたい反面、ハードウェアの知識のない方には選びきれないこともありますので、私の経験と選択を参考に、信頼あるリペアショップで取り付けてもらうことをお勧めします。

Gotoh社は、各ギターへのペグの適合についてはサービスの対象外とされていますので、決して問い合わせをされないようお願いをしておきます。

※ハードウェアの知識の目安として、Gotoh社のカタログ。あるいは HP の規格表のみで

 お手持ちのギターへの適合が判断できるか? があります。ご参考までに。