<Pignose 7-100 に続け!~ 微笑ましき他人の空似?

Pignose 7-100 が本国(U.S.A.)で絶大な人気を博して以降、それに続けとばかり、数多くのミニアンプ/ポータブルアンプの類いが製品化されました。

 

その多くは、標準的なコンボアンプのミニチュア版といった風貌をしていましたが、中には「これは 7-100 のパクリでは?」と思わせるような強者も出現し、思わず苦笑い。

最強の贋作 “Dynamite” はお楽しみに最下段にありますので、ごゆるりとご覧ください。

 

1.空似点 → 外観や構造など、“7-100もどき”ぶりの評価は?

2.肉薄点 → どこまで 7-100 の仕様に接近しているのか?

3.性能点 → 後続製品だけに、性能・仕様的に 7-100 を凌駕しているのか?

4.企画点 → 何か違ったセールスポイントを有しているのか?

5.総合点 → 全体的に見てどうなのか?

 

メーカー各位にはたいへん失礼とは思いますが、上記のような視点から寸評させていただきました。もちろん入手できた個体についてのみの所感ですので、悪しからず。

The Atlanta和製 7-100 が醸し出すいなたい世界へ…

私がこの個体を入手したとき、Pignose 7-100 の特徴を備えながらも、その古めかしくもあか抜けない外観に、衝撃を受けました。7-100 が、洒落たアンティーク調の風格を備えていることに対し、この Atlanta のいなたさは、まるで60年代の国産ラジオの化け損ないの如くです。

私は思わず、この Atlanta の方が、7-100 よりも先に製品化されていたのではないか?

もしかしたら 7-100Atlanta を参考に、よりミュージシャン好みにモデファイした製品だったのではないか? という仮説を組み立ててしまったほどです。

そうだとすれば、大発見ではありませんか! 私の胸は高鳴りました。

しかしながらこの新仮説は、内部を点検した際にあっけなく崩壊し、幻に終わりました。

アンプの増幅回路には、初期の ZO-3 にも使われていた東芝製オーディオ用パワーアンプICが使われていたのです。

7-100 よりも数年後の時代に設計された、新しいアンプだったことが、分かりました。

見てください、この筐体内部。Pignose 7-100 と同じにしないよう、回路部と電池ボックスの配置を 7-100 と反対にしたりと、涙ぐましい限りで努力賞をあげちゃいます。

でもストラップピンや橋渡しの太いケーブルカバーなど、大切なところはしっかりと押さえているぢゃないですか! Input Jack の配置にも、熱いものがこみ上げます(笑)。

1.空似点 → ★★★★★

2.肉薄点 → ★★★★

3.性能点 → ★

4.企画点 → ★

5.総合点 → ★★★★

 後日談…

Atlanta が Pignose 7-100 より後年の設計であったことは、内部の点検によって分かりましたが、果たしていつ頃の製品であったのかは、資料やネットでの検索も空しく、引き続き謎のままでした。

 

ある日のこと、何気なく見ていた楽器資料の中に、遂に Atlanta とクリソツな外観を持つポータブルアンプの写真を発見したのです。

エンブレムの位置と名称、コーナープロテクトの形状を除けば、これぞ紛れもない国内流通版の Atlanta!(涙)

それは「Sound Master」というブランドの、PR-150 という製品でした。

 

資料は1979年頃のもので、Sound Master の当時の発売元は、R社という関西の楽器商社でした。資料には、他にも数種類のアンプが掲載されていましたが、PR-150 以外は全てコンボアンプの形状をしておリ、ブランド随一のポータブルアンプとして、ラインナップされていたのです。

※ 海外版がどうして Atlanta なのか? そのブランド名の由来は、引き続き謎(笑)。

 

この PR-150 の価格は 15,000円。Pignose 7-100R の希望小売価格が 14,800円と、殆ど同額なのも何かの縁? というより、ポータブルアンプの相場なのかもしれませんね。

The BABY-G:隣国からやってきた、未来版 7-100

  ※写真は Bass版の BABY-B
  ※写真は Bass版の BABY-B

1990年代に入って、既に Pignose 7-100 は、リイシュー 7-100R の時代に移っていた頃。お隣の韓国S社から登場したのが、これ。しっかり 7-100 路線ですね(笑)。

 

90年代の仕様だけに、その精悍?なルックスに加えて、性能も 7-100 を凌駕することを目指しているようにも映ります。ラインナップも、ギター用に BABY-G。ベース用に BABY-B と、2種類設けられている徹底ぶりでした。

 

この顔にどこかで見覚えがあると思ったら、 2つのノブを両目に見立て、スピーカーを口のように配置している “MA-1” というエフェクターサイズのポケットアンプが、創業期の BOSS の製品にありましたっけ。

7-100 と BABY-G & BABY-B とで、機能が差別化されている点は以下のとおり。

1.キャビネット(筐体)非開閉式。

2.AC(家庭用電源 100V)DC(006P電池×2)兼用。

3.ボリュームに加えて、トーンコントロールを装備。

4.外部出力(プリアンプ、ヘッドフォン 等)非装備。

5.ギター用とベース用とに製品を分けて性能を専用化。→ 前述のとおり

 

残念! のところ…(あくまで私の所感です)

1.AC電源のコードが非脱着式のこと。邪魔です! ポータブルアンプでしょ?

2.電池収納部がただの穴。フタもロックしない。電池の重みで開きます(苦笑)。

3.ポータブルアンプなので、外部出力(プリアンプ、ヘッドフォン 等)は欲しい。

 ※ 私だったら1を諦め ACアダプタ式にして、2~3の仕様をしっかりしたいなぁ…

 

7-100 の後発製品なので、いろいろのプラスα を盛り込んではいるのですが、詰めの甘さを感じるところも散見されるので、総合点はあまり高くありません。ポータブルアンプは価格帯もあまり上げられないことから、仕様設定の難しさは分かりますけれどね。

1.空似点 → ★★

2.肉薄点 → ★★

3.性能点 → ★★★

4.企画点 → ★★★★

5.総合点 → ★★★

BIG RMS-1:名ギタリストの名を冠した、猛獣版 7-100

惜しくも故人になってしまいましたが、Edger Winter Group、Montrose や Gamma での活動をはじめ、希代の名セッションギタリストの呼び声も高かった、Ronnie Montrose のシグネイチャーアンプ BIG RMS-1 です。

 

おそらく 006P(9V電池)駆動のポータブルアンプとしては、世界最強クラスのパワーを持っている、見てくれからは想像もつかない、正に“羊の皮を被った狼”!!

 

正面のスピーカーや、1Volume という潔い?コントロールが、7-100 からの系譜を感じさせてくれます。

①キャビネット正面の右上に、Ronnie Montrose Model の表記が謙虚にされています。

② Input Jack、1Volume、AC Adp.、Battery Box だけ。たまらないこのシンプルさ!

③筐体の底面に、油性ペンで Serial No. と思われる数字が… 前オーナーの落書きか?

④と思ったら、Battery Box の底にもしっかりと表記。どうやら正規No.のようです。

 

このアンプ、内部を点検しようにも、どこにもキャビネットを開ける手掛かり(ビス止め箇所のような)がありません。悪戯防止というか、あっ晴れというか…

でも Jack や Pot. が緩んだり劣化したりすることもあるだろうに、あんまり徹底されてもメンテナンスに支障するので、困ったものです。

1.空似点 → ★

2.肉薄点 → ★

3.性能点 → ★★★★★

4.企画点 → ★★★★

5.総合点 → ★★★★

実は回路的には、上記の“Atlanta”の系列なんです。→ しっかり調べている(笑)。

オーディオ用パワーアンプICを使っておりまして、ZO-3 や Marshall のミニアンプ等にも採用されていた、ポピュラーな素子(現在はディスコン)です。使い方によっては 9V電池のアンプでも、ここまで凄いアンプになり得るという、いやはや勉強になりました。

 後日談…

BIG RMS-1 は、ブランドを “Mountain” と改めたうえで再生産されていたことが判明しました。キャビネット形状はそのままですが、スピーカーグリルが Mauntain の「MTN」をデザインした形状に変ったり、塗装が粗目の梨地になって、印象が変わっています。

コントローラー部にも手が入り、1 Volume 仕様はそのままですが、Pre-Amp. OUT が増設されたりと、ここでも 7-100 への接近が見られました。

そうそう、コントローラー部への印字も入っていましたね。スパルタンさが少し薄れて、やや一般的な仕様にモデファイされていましたよ。

Dynamite:ベールを脱いだ 7-100 和製パチ物 決定版!

こいつはちょっと笑えません。Atlanta のような微笑ましい接近ぶりは微塵もない。

冷たいまでに真の贋作、しかも日本製。ほぼ完ぺきな検体で、その実像に迫ります!

オリジナル 7-100 の電気部品が日本で作られて Pignose社へ供給されていましたから、筐体を日本で作ればそりゃ出来てしまいますわな。難しいこと、な~もありまへん。

 

でもこういう贋作が実際に存在して、おまけに本家の米国に輸出までされていたという事実と当時の状況には、ただただ考えさせられてしまうのです。つまり70年代の初め、我が国でオリジナル 7-100 とほぼ同じ物を作った場合、輸出してなお現地で競争力が持てるほど(つまりオリジナルより安価な)の原価で製造できたということですね。

日本が某大国のような輸出国であった残像でしょうか?

これまでご紹介した “微笑ましい空似アンプたち” と決定的にちがうところが、心臓部である増幅回路部分です。

ご覧のように、オリジナル 7-100 と瓜二つと言って差し支えない出来映え?で、回路もほぼ完コピされています。

 

より詳細に見てみますと、恐らくコストダウンを図ったような形跡が認められ、ひとつは PCB(基板)がより薄い材質で作られていること。もうひとつが、オリジナルよりも非常に細い線材が使われていることです。

小電力・小信号ゆえ、本来は規格的にこの程度で十分なのかもしれませんが、そこは楽器の領域なので音質重視で部品を選定すると、こうはならなかったかもしれませんね。

上下の写真でお分かりのように、Dynamite のキャビネットには全く内張りが貼られていません。ここは潔く(コストダウンと)割り切って、完全にオミットされているようです。

お世辞にも “木目調” とは程遠く、ベニヤ板の質感まる出しな「舞台裏感」が泣かせます。

ただしジャック部を掘り下げるルーティング加工はオリジナルを上回るとても丁寧な仕上りをしており、いかにも日本人のお仕事というか心意気を垣間見させてくれる箇所です。

まぁ作られている方にとって、その製品がパチ物かどうかは別問題と思われますので…

※)基板側のシャーシを外して撮影しています。
※)基板側のシャーシを外して撮影しています。

スピーカーも特に楽器用という仕様ではなく、ラジオやテレビに使う汎用品が採用されています。オリジナル 7-100 のスピーカー(#7-201)がヘビーデューティーで、いかにもギターアンプ用然とした作りをしているのとは対照的なところです。ネジ類もオリジナルで多用されているブラックメッキは一切使われておらず、全てユニクロームメッキの汎用品です。見た目にはチープな印象で高級感は出せていませんが、実は耐久性はこちらの方が数段上で、サビや経年劣化が殆ど見られない状態が保たれたのは皮肉なことですね。


スピーカーグリルの補強には、ユニクロームメッキされた鉄製のパンチングシートが使用されており、しかもスピーカーのフレームに合わせて八角形にカットされているという美意識というか、芸の細かさです。オリジナルが薄手の塩ビ(と思われる)シートを四角にカットしてはめているだけなのに対し、数段コストと手間がかけられています。

こういったところのコストのかけ具合というか、バランス感覚はどうなのでしょうかね?

確かに耐久性の点では金属製の方が勝っていることにまちがいありませんが、ここも楽器用アンプとして見た場合、響きや磁気の影響まで考えたうえでの採用とは言い切れないところがあります。もっともアンプとしての総合点はあくまでも「出音」が気に入るかそうでないかであって、マテリアルという重箱の隅を楊枝でほじくることが正しい評価だとは思っていません。あくまでもオリジナル 7-100 との比較という観点でのコメントです。

電池ボックスは オリジナル 7-100 と同寸・同規格ですが、JAPAN の刻印が向かって左側のネジ穴にかかっているので、モールド(金型)は別物であることが確認できます。

なぜか固定用のネジにシャーシ等と共通のナベネジが使用されていますが、電池を入れるうえでは、ここは頭の出ない皿ネジにするべき部位です。オリジナル 7-100 では、あえてここにだけは皿ネジを採用しているので、配慮としては対照的なところですね。

グリルネットについては、タイトルのエンブレムをアップした写真でご確認いただけると思いますが、当時のラジオ等で多用された厚手のグリル用クロスが採用されています。

オリジナル 7-100 は黒色に染色された厚手の麻布(アザブではなくアサヌノまたはジュート)であっさりキメているので、こちらの方が重厚と言えば重厚。高級感?もあります。


シャーシを外して撮影したところです。ネジ穴の位置に若干のちがいはありますが、この部品だけではオリジナルと区別できないほどのドンズバな作りです。見えにくいですが、右下には ACアダプタを受けるゴム足が貼ってあり、この仕様は Dynamite とオリジナル 7-100 のそれも 1000番台未満の極初期にだけ見られる、極めて特徴的な仕様です。

キャビネット裏面に貼られたこのジャック用プレートについては、もはや何も申すところがございません(苦笑)。MADE IN JAPAN の文字が識別用にさえ見えてきてしまいます。

<クローズアップ・メタルパーツ>

①掛け金(Latch)の方式・構造は同じですが、ひとまわり小さく作りもチープです。

②蝶番もとりあえず形状は変えてあります。①と同様、なぜかビス止になっていますね。

 マイナスのネジ頭がいかにも時代(でも early 70's)を感じさせ、泣かせてくれます。

③コーナー金具の端が尖っているのが気になります。オリジナルよりハンドルの付根がぶ

 厚いのは、鋳物(ダイキャスト)製のため。※オリジナルは鉄板プレス製で中空構造。

④さすがにブタ鼻ノブのコピーまでは避けたようで、当時のステレオに付いていたような

 アルミ製ノブが装着されています。さしあたり Dynamite との関係は無さそうですね。

<クローズアップ・ACアダプタ

①ACアダプタの全容。さすがに外観まではコピーの対象とはしていなかったようです。

② INPUT 120V/60Hz とあることから、米国向けの製品であることがわかります。

③ 2.5Φ の小径プラグを装備していることから、最初期の仕様がコピーされています。

④ MADE IN JAPAN の刻印がありますが、個人的にはあんまり誇らしく感じられません。

各部のコメントでも触れましたが、この Dynamite の仕様を見ていくと良くも悪くもオリジナル 7-100 の最初期の特徴的な仕様が、忠実にコピーされていることが分かります。

1.コードハンガーのコーナー四隅にRが付けられていない。

2.電池ケース上部の破損をプロテクトする “縁” が、フレームに設けられていない。

3.PCB 側のフレームに、ACアダプタを受けるためのゴム足が貼られている。

4.ACアダプタが、2.5Φ の小径プラグを装備した仕様(本体側のジャックも)である。

米国におけるオリジナル 7-100 の成功に便乗し、製品化されたと思われる Dynamite

その開発?にあたっては、発売直後の製品を購入して検体としたか、あるいは電子部品を OEM発注された際の、組込確認用サンプルをコピーしたのか。大きくこの二とおりが推察できますが、私としてはどうも後者が怪しい(苦笑)とにらみます。いかがでしょうか?

また米国における評判は? 普及・成功は得られたのでしょうか? 興味は尽きませんね。