Vol.2 ストレートケーブル 70's後半~80's前半編

ストレートケーブルについては使用した品種も膨大であり、またひとつの種類を継続して使ったわけでもなく、試しては換えてみたいなことを、ひたすら続けていました。

 

今でこそケーブルというジャンルが浮上して、ムック本まで出版されるご時世となりましたが、私が高校生だった70年代後半は、ケーブルは未だギターカタログの隅に僅かに紹介される程度で、情報といえば楽器屋さんの店頭に並んでいる商品が全てだったのです。

専門誌で外タレの機材が掲載されることはあっても、ケーブルまで紹介されることは、90年代に入るまで無かったと思います。

そんな中、70年代末に Greco が口火を切って、ケーブルとその関連製品だけを記載したチラシを発行しました。

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これは私にとって衝撃的な出来事であり、身近な楽器屋さんでも注文すればこれらのパーツが入手できるようになったのです。

 

好みのケーブルを、目的に見合った長さにしてプラグも専用化するなど、今日ではあたりまえとなったカスタマイズを始めるきっかけとなりました。

国産の楽器メーカー数社が発売したケーブルでの私の試行錯誤は、80年代に入って登場した CANARE GS-6 をもって、ほぼ終わりました。ケーブル専門メーカーの放ったギター用ケーブルはその総合的な完成度の高さで群を抜いており、以後、不動のスタンダードとしての地位を築いて今日に至っているのです。

ローノイズコード と ノイズレスコード

70年代後半のギターカタログには、オプション製品の紹介としてどちらの名称も頻繁に使われていましたが、明確な仕様の定義は無かったように思います。

文言的には“ノイズレス”の方が、“ローノイズ”より徹底しているのが分かりますね。

 

ローノイズコード(ケーブル)は、いわゆる普通のシールド線を指しているものと思います。60年代のエレキブームから、シールド(ケーブル)と呼ばれ続けてきたもので、線材メーカーで汎用シールド線として作られているケーブルを、ギター用ケーブルに流用しているものと言えます。70年代後半までは、ごく普通に流通していました。

 

ノイズレスコード(ケーブル)は、汎用シールド線をエレキギターに特化させた、ハイインピーダンス専用ケーブルに進化させたものと言えるでしょう。

エレキギター用のケーブルには、音質や高周波ノイズの遮断以外に、演奏で動き回ることへの柔軟性や、床叩きノイズと呼ばれる別な要因からのノイズ対策が求められます。

この目的のため、ケーブルの芯線とシールド(網)との間に導電ビニルをラミネイトしたものを、ノイズレスコード(ケーブル)と呼んでよいと思います。

 

導電ビニルには導電性のあるカーボンが配合されているため、大抵は黒色をしています。

芯線に、更に黒い被覆がコーティングされていれば、それが導電ビニルである場合が殆どです。

ノイズレスコード:芯線とシールドとの間に、黒い導電ビニルがラミネイトされている。

ローノイズコード:芯線に直接シールドがかけられている、シンプルな構造。

80年代に入ると“ノイズレスコード”はギター用シールドケーブルの標準仕様となり、更に線材に OFC(無酸素銅)を採用した高級指向品が、続々と登場しました。

事実 OFC の採用により、ケーブルの長さに起因する高域の減衰(トロさ)は、相当に改善されたように思います。当初は、10mもあるカールコードの音質が許せる範囲に収まるなど、驚異的な現象に思えたものです。

 

今日では、線材の材質以外にシースやはんだに至る、ありとあらゆる素材が改良の対象となり、終わりなき発展の道を歩んでいることは、説明するまでもありません。

最初のご紹介:Greco HEXA

上記チラシの左下に掲載されているものです。

 

8mmの極太ケーブルや、“プロフェッショナル仕様”という文言に魅せられて導入しましたが、その太さゆえの取り回しの悪さや、あげくの果てにケーブルの重みでプラグの付根が折損する事故を数回経験したことでライブでのリスクが高くなり、全数がお蔵入りとなってしまいました。

2番目のご紹介:Greco ULTRA HEXA 特製品

上記チラシの中上に掲載されている商品ではなく、線材とプラグとを別々に購入して製作したカスタマイズ品です。

既製品の両頭ともスイッチプラグという仕様は、私にとって使い勝手が悪かったためです。

 

特にストラトには、これ1本きりというくらいに重宝していました。友人からのオーダーで、何本も作りました。

3番目のご紹介:Tokai Noiseless Cable 1次形

80年代に入って Tokai から発売されたストレートケーブルです。

私が魅せられたのは線材よりもプラグの方で、一体に削り出された本体は耐久性も高く、プラグ折れの心配は完全に払拭されました。

“ノイズレス・ケーブル”と謳われてはいますが、線材に使われているのは普通のシールド線の域を出ていません。

ストラトには HEXA の特製ケーブルを使うことが多かったのですが、それの予備だけではなく、あらゆる用途に重宝してくれました。

「TOKAI E.G.P.T」とは、Tokai Electoric Guitar Project Team の頭文字です。

 

このケーブルには姉妹品が存在し、Fernandes や Rock Inn(新星堂)でも、キャップを変えただけの製品が、同時期に流通していました。その中にあって Tokai製は、シースに社名を印字したりケーブルの色に関わらずキャップの色をブラックで統一したりと、個性的な仕様を放っています。→ Fernandes や Rock Inn のキャップはマッチングカラー

シースを見ると、Tokai製には “Tokai Noiseless Cable” と印字されているのに対し、Fernandes製やRock Inn製は、ケーブル製造メーカーのコードが残されています。

拘り度やコストの掛け具合は、Tokai製の方が上ですね。

4番目のご紹介:Tokai Noiseless Cable 2次形

Tokai のストレートケーブルには、2次形が存在します。

先に“ローノイズコード”と“ノイズレスコード”のちがいについて触れましたが、他社が導電ビニルを採用した本格的なギター用ケーブルをリリースし始めたことにより、仕様変更を余儀なくされたのでしょう。

 

ぱっと見の外観はまったく同じに見えますが、上の③の写真を見ても分かるとおり、線材の仕様がまったくの別物に変わっています。

全体に線材の太さが上がったようで、シース越しにシールドのアミ線が浮き出したように見え、1次形に比べて少しマッチョな感触になっています。→ 写真を拡大すると分かる

これで、正真正銘の “Tokai Noiseless Cable” になったわけですね(笑)

 

その他には、キャップの刻印が変更されたり、L形プラグの製品が追加されています。

新しく登場した H.D. LINE とは、何を表すプロジェクト名なのでしょうか?

番外:古(いにしえ)の昭和50年代 3m 自作ケーブル

その昔、国分寺駅の南口に「サンエイパーツセンター」という無線機器と電子パーツを扱うショップがありまして、秋葉原に行くまでもないような買物については、ずいぶんと重宝させてもらった、地元ではありがたい存在でした。

惜しくも2001年に廃業してしまいましたが、今でもあってくれたらなぁ… と思うことがしょっちゅうあります。

 

Vol.1で紹介した「最初のおまけカールコード」の次が、この自作ケーブルだったように記憶しています。プラグが 1個 60~70円、単芯のシールド線も 1mが 100円しなかったのではないでしょうか? ごくありきたりの切り売りの 4φシールド線なのですが、パーツショップで扱っているシールド線は配線用なので細いものばかり。選択肢などありません。もちろんその頃に “OFCケーブル” なんて売っていなかったし、知りもしませんでした。

 

この手の工作はお手の物だったので、帰宅して20分後にはもう出来上がっていましたよ!

現代の中学生諸君にも、始めたての頃にはこんな積み上げから入って欲しいなぁと願わずにはいられませんが、技術の時間にはんだ付けも教えない(先生もできない)ようでは、こんなささやかなファースト・ステップもかなわないのでしょうね。