*ホワイトラベルのコーナー
素晴らしいのは レッドラベル だけじゃないっ!
<リイシュー 7-100R The White Label の変遷を追う>
生産を1985年から台湾。88年に香港と移しながらスタートした、リイシュー 7-100R。
その期間は間もなく30周年を迎え、オリジナル 7-100 Red Label の生産期間を遥かに超えた長期間に及び、その記録は今日でも伸び続けているのです。
何万台という膨大な生産数に対応させるため、その時点で最も安定して入手できるパーツを採用することは、必要にして避けられない事由だったと思います。
私はオリジナル 7-100 だけでなく、リイシュー 7-100R にも長年親しんでいることから、使用パーツの変遷についても、僅かではありますが傾向を把握しています。
これらの個体差については、できるだけ年代別に表していきたいと思います。
※ 年代による仕様の差異はパーツ類に集約され、外観については殆ど感じられない。
Vol.2 で紹介した Black Label が、何年間に何台生産されたかのは分りません。
いつしか White Label へと移行し、それはスタンダードとなって、White Label といえば リイシュー 7-100R を表すシンボルとなりました。
Red Label期 と Black Label期 との間に仕様の継承が見られたように、Black Label期 と White Label期 との間にも、それは起こらなかったのだろうか?
膨大な生産数の製品の中から、あてどない探索の旅を楽しんでいます。
*リイシュー第2期(ホワイトラベル1期)台湾製
最初のご紹介:最初期のAシリアル(検体 № A 012XX)
Black Label が後期 Red Label の面影を色濃く残していたのに対し、White Label のフロントフェイスは、明らかに前期 Red Label の “Wide Forehead”(広額)を再現したものに変わっています。
ところがここで筐体の寸法に再設計が入り、Red Label に対して僅かに縦と奥行きの伸びた、White Label 独自の寸法が立ち上がりました。“Wide Forehead”にも関わらず、スピーカグリルとノブの上端のクリアランスも開くという、少し面長になった White Label 独自のフロントフェイスが、ここに誕生したのです。
電気的には、増幅素子が初めてオール・シリコントランジスタ化されました。
Black Label 時には残っていたトランスカバーも廃され、PCB の様相が一変しています。
回路的には、NPNトランジスタの採用で一般的なマイナス接地に変更され、電流の向きが Red Label や Black Label とは反対になりましたが、一部の抵抗器の値が変更になった以外、概ね Red Label の回路を踏襲しています。ここが一番の押さえどころですね(笑)。
*リイシュー第2期
2番目のご紹介:最初期のCシリアル(検体 № C 014XX)
Aシリアルから 88シリアルにダイレクトに移行したのかと思ったら、Cシリアルというのが存在しました。
そのうちBシリアルというのも現れるかもしれません。
仕様を見る限り、Aシリアルと特段の相違は見い出せませんでしたが、初段のトランジスタがいびつな付き方をしていたのに気付き、見ると日本規格のトランジスタでした。
PCBが欧米規格のため、足(端子)を曲げて入れ換えないと装着できないから、いびつに付いて見えたのですね。
シャーシを開けた時に、中から1セント銅貨が出てきたのには驚きました。これが原因で接触不良を起こし、前オーナーは故障と思って手放してしまったのでしょうか?
この出来事から、本機の愛称は “Penny” になりました。
①ACアダプタのジャックが、ナットから大きく飛び出しています。これは下の写真でも分
かるように、この部分が筐体を貫通して丸穴で抜けているためです。そのため、ACアダ
プタジャックは薄い金属パネル 1枚のみが支えていることでパネルの負担が大きく、抜
き差しを繰り返すことで、写真のように折れたり浮きが生じたりしてしまっています。
②PCBの仕様は Aシリアルと変りありませんが、前述のとおり初段のトランジスタには、
日本規格の物が使われています。またPCBを固定するネジが穴どおりの 4箇所となり、
電池ボックスを固定するネジと同形の皿木ネジが使われています。
ここから出てきた1982年の刻印がある 1セント銅貨(Penny)も一緒にパチリ。
③留め金の形状は Black Label から継続された仕様ですが、写真の位置にあったナマコ状
の突起を消すために、プレスの型を加工した跡が残っています。理由は不明です。
④コーナープロテクトのエッジがシャープで、プレスの型が新しいことが分かります。
左側は 2003年製の同部分ですが、凸部のラインが緩くなって境界が消えかかっている
ことから、年代が後になるほどプレス型の劣化が進行していると思われます。
余談ですが、グリルの“Pignose”エンブレムが左下がりになっていることも、Black Label
期の仕様への先祖返りかとも憶測したのですが、これは前オーナーの後加工によるものと分り苦笑いさせられました。先の 1セントといい、なかなかエピソードの多い個体です。
*リイシュー第2期の生産国について
これまで私は、リイシュー7-100R の生産が香港で開始したものと勝手に決め込んでいたのですが、C 007XX という箱・説明書付の個体を入手した時に台湾製であることが分かりましたので、ここに追記します。この A~Cシリアルと Black Label については、本体のどこにも生産国が記載されていなかったため、その仕様で香港製に包括していたのですが事実が判明しましたので訂正させていただきました。まだまだ見識浅く反省しています。
*リイシュー第3期(ホワイトラベル2期)香港製
最初のご紹介:88年製(検体 №88/01XX)
ホワイトラベル第3期の嚆矢で、88年製をご紹介します。
Aシリアルからスタートした White Label ですが、C まで来たところで西暦の下二桁を表示し、/の右側に製造番号を記載する方法に変更されました。私の知る限りでは、88年製(88/~)からこの方法に変っているようです。
さて変ったのは、シリアルナンバーの表記の形態だけではありません。量産過程における生産方式の変更や、部品の調達事情まで、様々な要因と思われる仕様変更を確認することができます。但しトランジスタやコンデンサの型番やメーカーの変更まで入れると追いきれませんので、ここでは主要部品や製造方法の範囲に留めたいと思います。
本体のケーブルハンガーやスピーカーに、生産国のシールが貼られるようになりました。
①ホワイトラベル第2期(88シリアル)に移行しても、筐体の穴が貫通しACアダプタのジ
ャックがプレートから大きく飛び出している、強度不足の仕様が改善されていません。
②スピーカーに貼られた Made in Taiwan の生産国シールがシルバーの長方形で、翌年か
ら貼られたゴールドの生産国シールに比べて、4倍近い大きさがあります。
③入力のポットは 50kΩ Dカーブ。スイッチの接点が露出した、とても華奢な仕様です。
Dカーブはとてもスムースな音量変化をもたらしてくれるので、もったいないです。
反面小形なので、シャーシ内の配線の取り回しには、十分なゆとりが生まれています。
④出力トランスが、スピーカ側が 3線の仕様に変更され、また Aシリアルでは ACアダプ
タジャック直付けの大容量コンデンサが、PCB(プリント基板)に移動されています。
その他、コンデンサの移設やトランスの変更で、PCBは新しいパターンになりました。
☆スピーカのマグネット面に小さなドット(丸い凹み)が生じていることに注目!
*リイシュー第3期(ホワイトラベル2期)
2番目のご紹介:88年製(検体 №89/12XX)
翌89年になり、意外な箇所の仕様変更が見い出せました。
それは PCB(基板)のトランジスタについて、初段と2段目の型番が統合されたことです。これは遡ってオリジナル 7-100の時代から、一度も行われなかったことでした。
逆に言えば、これまで同じ低周波増幅用のトランジスタを
使う用途に対し、あえて違う形式を採用し続けてきたことには、音質面など何らかの意図があったはずです。
そこを乗り越えた回路面の進展があったのか、はたまた単なる部品手配上の都合なのかは、分かっていません。
音がこう変ったと、はっきり明言できれば良いのですが…
初段と2段目のトランジスタは、これ以降欧米規格の型番から、時には型番不詳のアジア製が標準となりました。
※ 出力段のトランジスタ2個は、差動増幅用途のために同形式同特性が前提です。
①ACアダプタのジャックは、未だ強度不足の仕様が改善されていません。この個体の曲り
度合いは、未だ軽傷の方です。前オーナーが、気を使って使用したのでしょうか?
②説明でも触れた2個のトランジスタを矢印で示しましたが、見えにくくてすみません。
これまでの TO-92形というスタンダードな形状よりも、薄形になっています。
③トランスに使われているビニルテープの色が、これまでどれひとつとして、同じであっ
た例(ためし)がありません。おそらくロット管理上の理由と思われます。
④スピーカーに貼られた Made in Taiwan の生産国シールが、ゴールドで小形のシールに
変っています。また、キャビネット内のケーブルハンガーには Made in Hong Kong の
楕円形のシールが貼られています。こちらは、リイシュー第3期からの共通仕様です。
*リイシュー第3期(ホワイトラベル3期)
3番目のご紹介:99年製(検体 №99/146XX)
1999年も終わりに近くなった頃、突然スピーカーに仕様変更が生じました。これまでフレームの抜き穴が4箇所だったのに対し、抜きが細かくなって穴が倍の8箇所に増えています。スピーカー全体の仕様に変更はないようで、おそらくフレーム部分のみをマイナーチェンジしたものと思われます。理由を察するに、抜き穴を小さくすることでのスピーカーのコーン紙破損(破れ)防止策ではないでしょうか? 確かに4つ穴の時代は、ACアダプタをはじめとするキャビネットへの収納物によるコーン紙の破れが、後を絶ちませんでした。そうした実情でしょうか、オリジナル 7-100 以来初めてのフレーム形状変更が生じました。
①本機のラベルとスピーカーの端子部分。
②本機より約4,000台前の検体の同じ部分。フレームの抜き穴以外、ほぼ同一の仕様で
あることがわかります。つまり99年もかなり末期になっての変更と推測されます。
③フレームの形状が変更されただけですが、印象はそうとう変って見えます。
④生産国シールは2番目と変更なし。かと思いきや、Hong Kong の方は大文字になっ
て、Taiwan の方には見えにくいですが枠線が入れられています。
*リイシュー第3期(ホワイトラベル3期)
4番目のご紹介:2003年製(検体 №03/091XX)
Pignose 7-100R は、21世紀に入ってもマイペース。
CD数枚分に匹敵する音楽データが、指先ほどのメモリースティックに記憶できる時代になっても、頑なに 60年代の仕様でトランジスタアンプの生産が継続されていることは、本当に喜ばしいことだと心から思っています。
さて本体の生産は相変わらず香港で続けられ、上掲に対しても見るべき変更点は見い出せないほど仕様の方は安定していましたが、その間にピグノーズ社の拠点が LA(ロスアンゼルス)を離れ、お隣ネバダ州にある北ラスベガス市に移転するという、創立以来の大異変が生じていました。
フェンダー社もそうでしたが、物価が高騰したうえに治安が悪くなった LA の人気は、あまり高くないようですね。
①ラスベガスの住所に変更されたラベル。実際の変更は 2001年の後半、11,000番代の
前後で行われたらしく、移転とラベルの変更が同時期かは定かではありません。
②ケーブルハンガーの生産国(Hong Kong)シールは何となく、スピーカーの生産国シ
ールの方は、ROC のない明らかに新しいシールに変っています。
<最近のリイシュー 7-100R は中国製。サヨナラ香港… >
*リイシュー第4期(ホワイトラベル4期)中国製
最初のご紹介:さてさて内容は…(検体 № 132000XXX)
2013年製と思われる、ごく最近に生産されたリイシュー 7-100Rを、入手しました。一見すると、外観上に変ったところは見当たりませんでしたが、中を開いてびっくり。
シャーシを外し、PCB(プリント基板)を見て二度びっくり。何度も驚かせてくれました。詳しくは下記を…
*生産国表示は香港から中国に
これまでは、本体の生産国表示が「HONG KONG」。
スピーカには「TAIWAN」のシールが貼られていましたが、本体の生産国表示が「CHINA」に変わっていました。
そしてスピーカに貼られていた生産国表示は、無くなっていました。
①スピーカーは形状を一新。フレームの抜きが4箇所でマグネットがフラットな面となり
一見するとリイシュー第2期に戻ったようにも見えますが、プレスの形状が異なるなど
新設計かつ新規に型を起こしたスピーカーであることがわかります。
②端子の部分にまで、収縮チューブによるコーティングが施されています。単なる絶縁と
いうよりは、断線を防ぐ補強の意味合いが強いと思われます。
③約10年の長きにわたり、キャビネット内に貼られていた Made in Hong Kong のシール
に代って、大きめでシルバーの Made in China のシールが貼られるようになりました。
ホワイトラベルのデザインもシリアルナンバーの法則も一新され、モデル名からはリイ
シューを示す “R” が消えています。もはや「復刻版」ではないという意味でしょうか?
外箱の裏面にはしっかり残っているのですけれどね。表面には 7100 だし…(苦笑)
④PCB(プリント基板)はパターンを一新し、材質も高級?な “ガラスエポキシ製” に変更
されました。おそらく回路上の変更は無いと思われますが、出力トランスのコア(鉄芯)
が横置きに変るなど、使用される部品の調達ルートも一新されたことが分かります。
配線についても、リイシュー第1期から継続されてきた “PCBの下敷き” が廃され、全て
の配線が PCB の上を通るように再設計されています。近代的な PCB になって香港製の
“いなたさ”が無くなってしまった寂しさと、トランス類の規格が変ったことで、現行製
品のパーツが旧製品の修理に使えなくなってしまったという、残念な面を感じました。
⑤製造が中国に移ったことで、部品や金具類のプレス型も新規になりましたが、形状が大
きく変わることはありませんでした。香港製末期にはコーナープロテクトの凸起の境目
が分からなくなるほどシャープさを失っていましたが、比較的鮮明な形状に仕上ってい
ます。欲を言えばオリジナル 7-100 のシャープな形状を取り戻したいところですが…
⑥豚鼻ノブのコーナーでも紹介しましたが、中国製になってから挿込式ノブに変更されて
います。そのためネジ止式ノブがキャビネット面すれすれだったのに対して、5mm ほ
ど浮いた状態になりました。キザミの関係で、凸が真上を向かない個体も見られます。
⑦パッケージのコーナーでも紹介しましたが、中国製になって外箱も一新されています。
デザインについてとやかく言うつもりはありませんが、④でも書いたように 7100 だっ
たり 7-100-R だったりと、商品名が迷走しているのは改めて欲しいところですね。
⑧楽器業界でもACアダプタのスイッチング電源化は著しいですが、伝統的なトランス式を
堅持し、キャビネットへの収納性もそのままなのは嬉しいことです。ただ Pignose の
ロゴも消え、普通のACアダプタになってしまったところに、一抹の寂しさも感じます。
<なぜ 7-100 と 7-100R は、大きさがちがうのか?>
筺体の写真を見ても明らかですが、7-100 より 7-100R の方が僅かに大きく、私にはこの微妙なサイズのちがいを必要とされた理由が、分かりませんでした。
何故なら、スピーカーや金具類の規格はほぼ同一で、筺体のサイズを変える根拠には結び付かなかったからです。
ところが意外なところから、あっけなくその糸口は見つかりました。
7-100R モデファイの一環として PCB(プリント基板)をシャーシから吊るす加工を行った際、4箇所あるビス穴の間隔とPCBのサイズを測ったとき、それがメトリックで設計されていたことに気付いたのです。
さては?と思い筺体の寸法を計測すると、案の定メトリックらしい寸法でした。
つまり、米国で設計された 7-100 はインチ規格。香港で生産された 7-100R は、メトリックで再設計されたため、設計を簡易化するために、インチ規格の寸法にとことん肉薄させることはせず、メトリックでレイアウトしやすいサイズに落ち着けたという憶測です。
たぶんこれが真相だと思います。これがギターだったら物議を醸したでしょうね(笑)。
※以下は覚え書きです。悪しからず…
*1991年製 Serial No. 91/119××
年間の生産数が1万台を超えていることが分かります。初期のリィシューに対し、マイナーチェンジ(改善)が開始されていますが、一度にいろいろな変更が発生したわけではないことが確認できます。
①大形Bカーブポット → 頑丈な仕様に改良。しかし音量コントロールが極端な変化に改悪。
②DCジャックの下穴は、未だ筐体を貫通したまま。