*レッドラベルのコーナー
<オリジナル 7-100 The Red Label の歩みをたどる>
レッドラベルと称されるオリジナル 7-100 の特徴について、その変遷を追ってみます。
私の所有する 7-100は、約5万台弱の中のほんの僅かなサンプリングに過ぎませんが、それでも明らかに、年代における仕様差や個体差を見い出して行くことができます。
固定概念にとらわれず、素直にその仕様を表して行きたいと思いますし、例外や未知の特徴は分かりしだい明らかにして行くとして、先ずはご笑覧ください。
最初のご紹介:1万番代未満①(検体 №38XX)
1万番代未満3000番代の特徴をピックアップしてみます。
レザー色は明るい “ライトブラウン”。質感共に後に紹介する #28000番代の材質に近い印象を受けます。
以後の変遷から見ると、ある意味未完成で、プロトタイプの仕様をよく残しているものと思います。
仕様面では、電池ボックス上部を保護するフレームの縁が未だ設けられていません。しかしこれは販売早々に、電池ボックス上部の破損が頻発したと思われ、現に本機の左側の該当箇所には亀裂が入っていることでも、ここが最初に表面化したウイークポイントだったのでしょう。早速改良されて、次の #52XX ではフレームが追加されています。典型的な特徴を4点、下記の写真に挙げました。
2番目のご紹介:1万番代未満②(検体 №52XX)
5000番代に入ってからの特徴をピックアップしました。
レザー色は “濃いめのレッドブラウン” に変更され、豚革(本革)との見分けがつきにくい、薄手で上質のレザーが使用されています。
スピーカグリルの縁のRが大きいところなど、1954年製のFender Stratcasterの特徴(ヘッドの面取りが大きく丸みを帯びていること)とイメージが重なります。
本機は本体の状態が良いうえに、元箱や説明書、保証書、レシートなどが丁寧に添付されており、資料面でもベストの状態で着荷した時には、とても驚きました。
元オーナーの意志を、大切に引き継ぎたいと思います。
3番目のご紹介:1万番代未満③(検体 №70XX)
7000番代に入ってからの特徴をピックアップしました。
仕様は安定しており、概ね 5000番台と変りありません。
唯一、ACアダプタのプラグとジャックの規格が 2.5Φ か
ら 3.5Φ に拡大されているのが確認できる程度です。
これは、2.5Φだと細くて折れやすく、また接触不良も起こりやすいことからの、仕様変更と思われます。
そもそも何故、こんなに強度的に問題がありそうな規格を最初に採用したのかが不思議に思えます。
強度といえば、③に記載したようにプラグを L形にするのも、これまでのストレート形状に対して破損(折損)には数段強くなった改良と言えます。
①コードハンガーの角は、まだRがつけられず角ばったままです。
②スピーカグリルのメッシュ穴は、まだ細かいままです。
③ACアダプタのプラグとジャックの規格が 3.5Φに拡大されています。またプラグ側が
L形に変更されているのも、折損に強く壁面に近づけられることへの改良でしょう。
④豚鼻ノブの裏面の刻印がたいへんシャープで、型がまだ新しいことが分かります。
4番目のご紹介:1万番代(検体 №137XX)
1万番代の特徴を、1万番代未満と比較してみます。
色は“濃いめのレッドブラウン”を継承しています。
スピーカグリルの縁のRが小さくなったことで、顔つきが少し変わり、最も額が広く見える仕様となりました。
概ね 1万番代未満③の仕様を受け継いでいますが、普及が進んだことで、ユーザーから寄せられた感想や要望の反映が行われたのでしょうか? 更に細部のマイナーチェンジが各所で進められていることが、うかがい知れます。
1万番代未満からの変更点を4点、下記に挙げました。
① 1万番代前後でエンブレムの型を新しくしたらしく、文字の縁が太く平たい形状に
変っています(写真下)。そのため文字間の隙間が埋まって、ベタっとした印象に
なりました。エンブレム自体は、光の反射が高まって視認性が向上しています。
②スピーカグリルの縁につけられたRが小さくなり、顔つきの平面性が高まりました。
③スピーカグリルのメッシュ穴径が、1万番代未満の 2倍くらいの大きさになりました。
④コードハンガーの角にRがつけられ、以後この形状が標準となりました。
5番目のご紹介:21000番代(検体 №214XX)
2万番代 前期の特徴を、1万番代と比較してみます。
外観上は 1万番代との見分けがつきません。
下記の写真に挙げたとおり、筐体内部のコードハンガーの上に、パテント関連を表示したステッカーが貼られるようになりました。※)
これは内部の画像を見た際の、大きな識別点になります。
他の小さな点では、スピーカを固定する際に使われていたワッシャが無くなり、袋ナットで直に固定するようになっています。前のオーナーが外したものなのか、部品の節約で使われなくなったのかは不明です。
※)実際にはもっと早く、1万8千番代あたりから貼られていたことを確認。
6番目のご紹介:23000番代(検体 №238XX)
上掲と本機との間で、仕様の大きな転換期に入りました。
先ずスピーカの位置が大きく上に移動し、フロントマスクのイメージが大きく変っています。
私は “Narrow Forehead(狭い額)” と呼んで、形状としての「後期形」の始まりとしています。
筐体内部には、組込日と思われるデイトスタンプが押されていました。(1977年4月6日と読めます)
パテント関連を表示したステッカーの文面が、早くも上掲から変わっていることにも気が付きました。
本機の変わっているところは他にもあって、取っ手(ハンドル)が他の 7-100 より太いことが、お分かりいただけるでしょうか?
もちろん写真の右側が本機です。
プレスの型がいくつかあったのでしょうか?
この部品形状は、以降も稀に現れています。
比較した左側の 28000番台とは、レザーの色だけでなく、厚みやシワのつきかた等の、質感の違いについても伝わるかと思います。
7番目のご紹介:26000番代(検体 №26822)
ナンバーを明示したのは、明らかに個体としての仕様が特殊だと感じたからです。一見するとごく普通の個体に見えましたが、シャーシを開けると見たことも無いPCB(プリント基板)が姿を現して大いに驚かされました。
最下段のシリコンPCB程のインパクトは無いものの、明らかに新規のPCBが起こされており、出力トランスも3本足の別型に変っています。Philmore のステッカーは、いったい何処のメーカーの商標なのでしょうか?
トランジスタはゲルマニウムで、これまでと同形式が使われており、サウンド的には特筆するべきところはありません。このPCBも継続されることはなく、ラインナップ上のあだ花に終ってしまったようです。
写真のとおり PCB は一新されており、72-1110 という型番がプリントされています。
そしてトランスカバーには、「Philmore」というブランド名がプリントされたステッカーが貼られています。無塗装カバーも含め、これも今までには見られなかった仕様です。
しかし PCB の生産拠点は変わりなく日本製で、電子部品も日本製が搭載されています。
デイトスタンプ(1977年12月21日製)の位置が PCB 側であることも、他のデイトスタンプが印字された個体とは異なり、本機の存在を更に異質にしています。
8番目のご紹介:28000番代(検体 №288XX)
6番目の仕様からまたまた変更が生じ、レザー色が明るい “ライトブラウン” で、弾力を持った材質に変りました。
しかしこの変更以降は、いくつかの特例を除いていわゆる「後期形」の仕様が確立したように思います。
※ 7番目では触れていませんが、“ライトブラウン”です。
色合いの変更は、販売サイドから「レッドブラウン」の暗さが指摘されたことが原因。スピーカの位置は、製造サイドからコントロール周りのアセンブリ組込の改良要望(スピーカの位置とポットが近接しているとフレームが組込難い)が原因ではないかと、私は推測しています。
9番目のご紹介:3万番代 特例仕様(検体 №334XX)
3万番代に入って現れた、珍品グリル機をご紹介します。
スピーカグリルのエンブレムが水平に配されているため、ホワイトラベル期の リイシュー7-100R と見まちがえてしまうような、顔つきになってしまっています 。
※ ホワイトラベルが本機に倣ったわけではない(笑)。
筐体内部には、組込日と思われるデイトスタンプが印字されていました。(1978年12月8日と読めます)
増産への対応で臨時のラインを設けたのか、外注を行ったのか、何か特別な事情があったように思われます。
10番目のご紹介:3万番代(検体 №378XX)
検体は 3万番代の後半ですが、この頃になると仕様が安定したことで、外観や内装における差異は殆ど見られなくなりました。
従って 9番目や 11番目の特例を除き、2万番代の中期以降からレッドラベルの終焉を迎える 4万番代の後半までを、外観の写真から判別することは難しくなります。
11番目のご紹介:4万番代 特例仕様(検体 №407XX)
珍品グリル機は、4万番代に入っても現れました。
もしかしたら、珍しくないのかもしれません(汗)。
スピーカグリルのエンブレムが水平なので、リイシュー7-100R と見まちがえてしまうような、顔つきです 。
こちらの方は 9番目と違って、筐体内部のデイトスタンプがありません。生産上の手違いで生まれたのでしょうか?
12番目のご紹介:4万番代(検体 №470XX)
前述のとおり、外観的には2万番代の中期以降から変ったところはありません。
内部に目を向けて見ると、スピーカ・マグネットの中心部に放射状の 4個の小さなドットが発生していることに気付きます。これは別ページで紹介している、極初期の再生産品(7-100R Black Label)に搭載されたスピーカに見られる仕様です。※)特徴的なイエロースタンプは無い。
このマイナーチェンジは正規の変更で、およそ4万4千番代あたりから採用されていることが分かりました。
13番目のご紹介:レッドラベル末期仕様(検体 №487XX)
上掲の 47000番代との仕様上のちがいは殆どありませんが、筐体内部に貼り続けられた、パテント関連を記載したステッカーが消滅しています。きっと生産中止が決まっていて、増刷を見送ったためでしょう。(印刷物は枚数が少ないほどコスト高になるため)一抹の寂しさを感じます。
本体の状態は比較的良好で、スピーカ・マグネットの四つ星刻印もくっきり浮き上がって見えます。キャビネットに貼られた豚君のシールがなかなか良い味を醸し出しているため、清掃時に剥がすのを見送ってしまいました(笑)。
14番目のご紹介:レッドラベル最終仕様(検体 №495XX)
1972年に歴史が始まったオリジナル 7-100(レッドラベル)の系譜も、遂に1982年の会社閉鎖をもって終了してしまいます。これはその直前に出荷されたと思われる個体のひとつで、おそらくレッドラベルの最終仕様であろうと推測しています。(本機の生産は1981年の末頃と推定)
驚くべきことに、最後の最後になっても仕様変更は行われていました。レザーは厚手で彫の深い全く新しい材質に変更され、金具のリベットはこれまで継承されてきたオリジナルの 2倍近い大きさのものに変更されています。正規の仕様変更なのか、あるいは代用資材なのでしょうか?
それにしても、形状のマイナーチェンジこそ経ていますが、回路や部品など生産が始まった頃の仕様を頑なに継承し続けたことや、ゲルマニウムトランジスタ等のディスコンパーツを、よくもまあ数万台分も集め続けられたものと、敬服させられてしまいます。
1981年に生産されたアンプを“ヴィンテージ楽器”と称するには少々抵抗を感じなくもありませんが、こうして振り返ってみると、立派にその資格を有していると言えるでしょう。
「シリコン」は存在した…:23000番代(検体 №23655)
最後に持ってきたのには事情がありまして、それはレッドラベルのラインナップ上「ありえねー!」という特徴を持っているためです。仕様としては、6番目の 23000番代と同一で、Dateスタンプも 7日くらいの差しかありません。
シャーシ内を見ない限り、同一ロットの製品に見えます。
しかし、点検・整備のためにシャーシを開けたとき、目を疑うような驚愕の仕様が現れました。この個体には歴代の 7-100 とは全く異なる PCB が搭載されていたのです。
そして更に、搭載されていたトランジスタは全てシリコンという、私の内で オリジナル 7-100=ゲルマニウムトランジスタ という常識が覆された瞬間でもありました。
写真のとおり PCB は一新されており、UA-033 という型番がプリントされています。
そしてトランスカバーには、「CALECTRO」というブランド名を始めとする性能や型番がプリントされた銘板が貼られています。これも今までには見られなかった仕様です。
しかし PCB の生産拠点は変わりなく日本製で、電子部品も日本製が搭載されています。
トランスカバーに隠れて写っていませんが、プリアンプ部には今日でも多用される代表的な汎用トランジスタ(2SC1815)が、この当時(1977年)から採用されています。
2SC1815 といえば NPN形なわけで、そう思って回路を追うと、やはりマイナスアースに変更されていました。まるで本機から約20年後に登場する「香港製ホワイトラベル」のプロトタイプとしか例えようがありません。いったいこの時、何が起こったのでしょうか?
考えられるのは、
1.訪れるであろう、ゲルマニウムトランジスタのディスコン(廃品種)に対する対策。
2.次第に多勢となって価格が急落した、シリコントランジスタへの経費的な転換。
3.低温下で動作不良を起こすゲルマニウムトランジスタのユーザークレームへの対処。
大きく、この3点ではないかと推測されます。しかし何等かの事情で、この仕様変更は長続きすることなく短命に終わります。PCB は元どおりのゲルマニウムトランジスタを搭載した回路に戻され、この後 25,000台以上の生産が続行されて、1982年にレッドラベルの終焉を迎えるまでに、基本的な仕様が変わることはありませんでした。
まさにラインナップ中の “あだ花” と呼ぶべき、幻の「シリコン・レッドラベル」です。
余談ですが、これとよく似た事例が Electro Hermonics社の Big Muff pi でありました。
Big Muff Pi はトランジスタ 4石のオール・ディスクリート回路が特徴でしたが、一度だけオペアンプ(IC)を使用した新回路に変更されたものの、すぐに元の回路に戻された経緯があります。原因は、サウンドが変わってしまったことが不評だったからだそうです。
「シリコン・レッドラベル」の場合も、同じ理由だったのでしょうか?