第3ステージから数年空けてしまいました。写真は撮りためてあったのですが、熱意というか情熱が醒めてしまって…。というのも、拙文や写真をパクってのオークション説明や資料への引用・転用を散見するにあたって、何のためにやっているのかを考えさせられてしまったからです。もちろん私だっていろんな資料やHPを参考に書かせていただいていることは事実です。でも “丸写し” や “コピペ” はやっていませんよ。どんな目的にせよ、ご自分なりの表現や文章で行っていただくことを、ここにお願いする次第です。

グレコのハムバッカー 第4ステージ

~第三世代 Super Real ヴィンテージ・レプリカへ

1977年版の Greco カタログ Vol.7 より
1977年版の Greco カタログ Vol.7 より

Greco EGシリーズが、ヴィンテージモデル再現への動向を表し始めたのが1977年頃。

上級モデルのEG800に、当時新進気鋭のリプレイスメントPUブランド DiMarzio社から製品化された PAF(DP103)を標準装備し、50年代のサウンドをセールスポイントにしたことに端を発します。ただこの当時の Greco EG は Gibson の現行モデル(に近い)の仕様をコピーしており、ペグ等のハードウェアをはじめ、メイプルネックでカラーリングもボディやネック裏面までサンバーストに塗装される等、ヴィンテージモデルの仕様を追及していませんでした。

 

1978年になって、エレキギター業界に衝撃が走りました。ヴィンテージモデルに肉薄する高い再現度を誇った LSシリーズが東海楽器により発表されたのです。

これまでは「オールド風」というように、現行モデルのどこかをアレンジして古色感を演出してはいましたが、ズバリ「1958年モデルの再現※」という類いの決め打ちはおそらく初めてのことだったと思います。

※2コブペグをはじめ60年形の方が妥当。

1978年版の 東海楽器 カタログ Vol.1 より
1978年版の 東海楽器 カタログ Vol.1 より

そもそも当時は所有者や専門店、一部の研究家を除き Les Paul Modelの 1958年 1959年 1960年の仕様の変遷など周知されていなかったのが現実です。音楽雑誌の記述にも「~の使用する 58年形スタンダード」などホンマかいな?と首を傾げるようなかなり怪しい解説が満載でした(笑)。

 

東海楽器の LSシリーズはヴィンテージモデルを再現したギターの嚆矢で、高い外観の完成度を誇っていましたが、コントロールサーキットが PCB(プリント基板)によって現代的にアレンジされていたり、ピックアップが外注メーカーの仕様そのものであったりとハードウェア的には未だヴィンテージモデルへ接近させられる余地が残されていました。

もちろんこれは “レプリカの度合い” という観点であって、東海 LSシリーズはサウンド的にも十分満足できる、当時最高水準の優れた製品であったことは言うまでもありません。

Greco の誇る EGシリーズもコピーモデルの域を超えた優れた製品でしたが、ヴィンテージモデルの再現度にあっては東海 LSシリーズに軍配が上がる結果となったため、これまでに築き上げた EGシリーズラインナップを、惜しげもなく一新させるという対抗策に打って出ました。これが 1980年から始まる Super Realシリーズとして開花します。

そこには DiMarzio製 PAFとは異なる視点で、つまりオリジナル P490(Patent. Applied. For)の再現を目指した国産ピックアップの開発プロジェクトも推進されていたのです。

Z-DRY 国産ハムバッカーの頂点

後年になって明かされた、稀少・最高の初期ロット

1982年版 Mint Collection カタログから
1982年版 Mint Collection カタログから

Greco DRY がカタログに登場したのは 1980年の Super Real 登場時と記憶していますが紙面には搭載されたギターのみ紹介されていましたので、外観上はニッケルメッキされたカバードの U-1000と見分けがつきません。ボビンの様子や Z-DRYの由来となったベースプレート裏面に Zスタンプが押されていたことも、当時は知られていませんでした。DRY というピックアップの外観が鮮明に印象付けられたのは、むしろMint Collection(1982年発足) のカタログ以降ではないかと思います。

つまり DRY=ベースプレートに「Gibson P.A.F.を模したデカールの貼られたもの」という固定概念を少なくとも当時の私は持っていたのです。

Greco DRY の開発経緯や Z-DRY以降の顛末については Guiter Graphic Vol.5(リットーミュージック刊)や高野順氏のブログで触れられておりますので詳しくは述べませんが、

要は 1979年頃から開発が始まり、国内外の著名ミュージシャンの意見を取り入れながらプロトタイプを練りあげ、最後にU.S.A.製のコイルワイヤーを採用したものが、サウンド的に完成形となったとあります。それが国産ハムバッカーの最高峰を極めた Z-DRYです。それを更に外観まで。つまりスクエアウィンドゥの設けられているボビンの製作まで推し進めたのが、最高到達点となるはずだった Mint Collection かつ 1982 DRYのデカールを貼られたピックアップであったということです。

高野順氏のブログによると 1982 DRYの生産が始まって間もなく、U.S.A.製のコイルワイヤーの在庫が払底。オリジナルと同等品が補てんされることもなく汎用のウレタン線に切り換えられたため、 Z-DRYの持つ豊かな音色は完全に失われたと嘆かれ終わっています。

1982 DRYのなかにもサウンドの良否があることは事実かもしれませんが、これは Z-DRYと 1982 DRYの双方を所有して聴き比べるしか方法がありませんね。

 

<1980年製 #不詳> これはこれで稀少な “元からオープン Z-DRY

私の公開できる検体としては唯一の Z-DRY です。(他の Z-DRYはギターにマウント中)

単体で入手したため搭載されていたギターは不明ですが、おそらくショップ限定で発売されていた品種らしく、カタログモデルには無いはずの「元からオープン仕様の Z-DRY」がここに存在します。カバーを外さなくては見られない Z-DRYのボビン等が見どころです。

① U-1000と共通のボビンを使用しているため、外観で見分けることはできません。

②ベースプレートに押された Zスタンプは鮮明なのですが、デイトスタンプが不鮮明なた

 め詳細が判読できないのが残念です。#820201  1980年2月1日(金)ではないかと?

③斜めから見た外観。アセテートの保護テープを巻いた後工程でワックスポッティングさ

 れていますので、「元からオープン仕様の Z-DRY」なわけです。

④ P.A.F. の仕様に準拠して、ベースプレートの幅いっぱいに収められたマグネット端部を

 確認できます。 これまでの Grecoの歴代ピックアップには無かった大きさです。

追記:知人から、この “元からオープン Z-DRY” の出所ギターの情報が入りました。

今は廃業された三鷹楽器のオリジナル「カンダムスター」のリア用らしいとのこと。

仕様を調べてみると確かにリアPUのみ DRY搭載 で、しかもブラック・オープンですね。

「カンダムスター!」とはいったいどのようなギターなのか? 想像してみてくださいね。

あの時代は本当に何でもアリで、良かったんだか間違っていたんだか…楽しかったです。

                                2023年4月10日記

☆トピック ~ Z-DRY であれど “機械巻” ~

DiMarzio や Seymour Duncan が確固たるブランドを築き上げた80年代以降、90年代になって知名度を上げてきたのが Tom Holmes、Lindy Fralin、VanZandt をはじめとした個人工房が主催する “ハンドメイドブランド” でした。彼らはカバーまで工房の内製としたり独自のカラーを打ち出してきましたが、ボビンにコイルを巻く工程を機械頼りにせず、指でテンションや巻きの厚さを絶妙にコントロールする “手巻き” に拘っていることは共通していました。他にもシークレットは多々あれど、この “手巻き” の技でオリジナルを確立させることこそ彼らの生命であっても過言ではありません。その入魂の工程から生まれる至高のサウンドが、プレイヤーに唯一無二の感銘を与えることは間違いないでしょう。

さてそれでは “機械巻き” で量産されたピックアップは “手巻き” の手工品に劣っているのでしょうか? 先ずサウンドには好みがあって一概には言えませんし、例えば DiMarzio社のパテント “エアバッカー” のように磁力を巧みにコントロールすることでヴィンテージ・ピックアップ特有の枯れたサウンドを、技術や構造で再現するような挑戦が見られます。

何といっても “機械巻き” で量産されたピックアップは比較的安価に供給されているのがありがたいですね。前置きが長過ぎましたが、我らが Z-DRY ももちろん “機械巻き” の量産品。ということは、1982年のリプレイスメント品(単品売り)の価格 20, 000円はかなりの高額と言えますね。あの U-4000も 18, 000円となかなかのものでしたが。

Guiter Graphic Vol.5(リットーミュージック刊)の高野順氏の証言では、Z-DRY は選りすぐりのマテリアルの結晶というべきニュアンスのコメントをされており、コイルにせよマグネットにせよ当時入手できる最高の部材によって作り上げられていたわけですね。

長々と書いた割にはいまひとつ勘所が押えられていないようで、どうもすみません。

☆トピック ~ Z-DRY のデイトスタンプ

「Z-DRY は工場に少量あった U.S.A.製コイルワイヤーを使用して生産~」という記述があったことを思い出し、果たしてどれくらいの生産回数があったのかという興味が、ふっと湧き上がりました。そこで手持ちの Z-DRY や知人の所有物、過去に記録したものや写真等から判読できるものを拾い上げてみました。するとけっこうな生産回数があったことが判明しましたので、ここに挙げてみます。出所・写真等についてはご容赦ください。

#820201 → 1980年2月1日(金)上掲の Z-DRY です。

#820204 → 1980年2月4日(月)

#200531 → 1980年5月31日(金)

#200705 → 1980年7月5日(土)ゴールドカバード

#200716 → 1980年7月16日(水)

#201018 → 1980年10月18日(土)

#201121 → 1980年11月21日(金)

#210129 → 1981年1月29日(木)

#210316 → 1981年3月16日(金)

#210418 → 1981年4月18日(土)ゼブラボビン

#210508 → 1981年5月8日(金)ゴールドカバード

#210522 → 1981年5月22日(金)

#210530 → 1981年5月30日(土) やや印字不明瞭

#211021 → 1981年10月21日(水)

#211113 → 1981年11月13日(金)記録の範囲でのラストデイト

 ※記載のないものはニッケルカバード仕様

こうしてみると、およそ2年弱の期間。ほぼ毎月で週末の生産が多い傾向があるようです。

他には、ロットあるいは巻線機を表すと思われる左端の数字が全て 2 であることから、指定された機械でのみ生産されていた可能性が窺い知れます。

いずれにしてもこの時代は、フロント用とリア用は出力線の穴位置が異なるだけの、同仕様の物。ギター 1本に対して 1セット分(2個)が生産されるわけですから、相当数(何千何万?)の量産が行われたと言って良いと思います。ただギターから外された個体はそうは多くないでしょうから、単体での入手が困難なのだと思っています。

冒頭に記載しましたとおり40年前から私的に記録したものを整理しただけなので、全てを網羅したわけではありませんし、記録の際にミスがあったかもしれません。今となっては確認する術もありませんので、あくまで参考にご覧いただくことをお願いします。

<1982 DRY カバードゴールド>

1982年にシリーズの名称が Super Realから Mint Collectionに変更されるのと時を同じくして、ピックアップの生産が日伸音波から富士弦楽器製造の内製に移行されています。

ピックアップの仕様は概ね踏襲されていますが、黎明期から継続されてきたデイトスタンプは廃され、代りにピックアップ名のデカールがベースプレート裏面に貼られるようになりました。ルーツはもちろん Gibson T490の “P.A.F.” デカールですね。

①ピックアップ自体は同規格・同性能ですが、ベースプレートの出力線の出る穴位置を変

 えてフロント用・リア用に作り分けられています。

②ゴールドカバーですが退色はおろかメッキすら剥げて、地金のジャーマンシルバーが顔

 をのぞかせています。ここまで弾き込まれれば、ピックアップも本望でしょう(笑)。

③この角度からでは既存の Uシリーズの外観と変わりません。

④既に富士弦楽器製造の生産に移行されているはずですが、N.O.の刻印が確認できます。

 おそらく日伸音波から譲渡された残部品を消化しながらの生産だったのでしょう。

<1982 DRY オープン>

 ①製造時からオープン仕様なので、ベースプレートにカバーをはんだ付けした跡はあり

  ません。デカールの位置も Gibson P.A.F.に概ね倣っています。

 ②コイルのボビンが新金型となり、ネジ止め用の穴2個に加えてコイルワイヤー引出用の

  穴が端部に1か所追加されました。内側が角穴でスクエアウィンドゥと呼ばれます。

 ③そのスクエアウィンドゥ部を拡大したところ。外側が丸穴で内側が角穴になっており

  オリジナルで起きている「穴の中心のズレ」まで再現していることには脱帽です。

 ④ワックスポッティングによる被膜が全体を薄く覆っています。Gibson P.A.F.と比べて

  最も雰囲気のちがいを感じる部分が、このワックスポッティングだと思います。

<1982 DRY フルカバード>

①ベースプレートは 1982 DRY の標準仕様ですが、出力線が伝統の網線から一般的なシー

 ルド線に変更されています。

②カバー全体がブラックで焼付塗装され、右下に DRY のロゴがプリントされています。

 検体では写真の上側にアジャスタブル側がくるためフロント用として生産されたものと

 思われますが、もちろんリア用としても使えます。

③ジャーマンシルバー(洋白)のカバーにブラックで焼付塗装されているため、樹脂製の

 カバーよりしっとりとした仕上がりになっています。キズに弱いのが難点でしょうか。

④カバーに N.O.の刻印が見当たらないため、富士弦楽器製造移行後に新たにプレス型を起

 こした可能性があります。

☆トピック ~未告知で行われた極性反転~

1980年代の中ごろ、Greco のハムバッカー全般に対しマイナーチェンジが実施されました。その内容は「極性の反転」で、黎明期から続いてきた ポールピース側がS極。ソリッドスラグ側がN極。というルールが変更され、ポールピース側がN極。ソリッドスラグ側がS極。に反転変更されました。告知もおこなわれず理由は明らかになっていません。

ギターに搭載される分には音に影響の出ない変更だったので余り知られていませんが、新

旧を組み合わせて使用すると磁極性の影響が出る可能性があります。位相のマッチングについては、新旧ともに同位相に統一されているのでフェイズアウトの問題は起きません。

<無印 DRY オープン 4コンダクター #なし>

1982年の Mint Collection 発足時には DRY を始めとするピックアップのニューモデルにデカールで名称が表示されていましたが、数年でそれは廃止されて “無印ピックアップ” となり、搭載していたギター(出どころ)が分かるか音を聞かない限り、外観で見分けることができなくなってしまいました。検体は S-S-Hタイプの Greco SPF-70(1987年頃)リアポジションにマウントされていた DRYで、レアな 4コンダクターケーブル仕様です。ギターでは、コイルタップスイッチが結線(オリジナル仕様)されていました。

① DRY ですがデカール無しデイトスタンプも無しで、手掛かりを失ってしまいます。

②上掲のとおり極性変更後の製品なので、ポールピース側がN極。ソリッドスラグ側がS極

 に反転されています。シングルコイルPUとハーフトーン・ミックスさせる場合は、シン

 グルコイル側の極性に注意しないとハムキャンセル効果が発揮できません。

③「穴の中心のズレ」まで再現しているスクエアウィンドゥが確認できるので、 1982年

 以降に採用された新しいコイルボビンのモールドが使われていることが分かります。

④ 4コンダクターケーブルの色分けは、Duncan や DiMarzio とも異なる独自の配色で、

 青 → Hot1、黄 → Cold1、赤 → Hot2、黒 → Cold2 となります。

< DRY フルモールド 2コンダクター #なし>

1980年代も中頃に差し掛かると、ヴィンテージギターのレプリカ度を競う風潮は沈静化の方向に向かい、代ってヘヴィメタルやニューウェイヴ志向に適応したギターの台頭が目立ち始めました。DRY は優秀なピックアップかつマテリアルでしたが、それを活かして様々な仕様への分化が始まりました。これはその一例で、EMGブランドのピックアップを意識したような外観に変更されてます。もちろん仕様はパッシブのままですが、樹脂製のモールドカバー内にコイルボビンとマグネットだけを沈め、エポキシ樹脂を含浸・充填させることで金属製のベースプレートを廃している構造が、既存の DRYから一新されています。

サウンドもこれまでの DRYの特徴を引き継ぎつつ一新されたとの表現が適切でしょうか?

①セット用にフロント用とリア用の仕様を分けて作られています。具体的にはフロント用

 は上側(DRYのロゴ無し側)がS極。リア用は下側(DRYのロゴ有り側)がS極となっ

 ています。抵抗値は揃っていてパワーは同一。ポールピースのピッチも揃っています。

 組み込みに配慮してリア用のホット側に赤いマーキングを施してあるのは、1970年代と

 変らない伝統が息づいていますね。分かりにくいですがふたが接着されています。

②黒いカバーで右下に DRYのロゴ。一見フルカバードに似ていますが、カバー上面が平坦

 で梨地仕上げ。コーナーが全て切り落としたように角ばっていることで区別できます。

③上記解説のとおりエポキシ樹脂が充填されたモールド内部。ポールピースは両極ともソ

 リッドスラグが使用されており、これもサウンドの特徴になっていると思われます。

④リア用の出力線を拡大したところ。白 → Hot、赤 → Tap、シールド線(裸線)がグラ

 ウンドとなります。マウント用のネジは,タッピングスクリューが使われています。

DRY の生産と派生機種はこの先も続くのですが、この後は蒐集を止めてしまったのでお見せできるものはここまでです。以降は同時代の他のピックアップをご紹介して行きます。

発行当時から今日まで、夢を与え続けてくれているこれらのカタログに感謝をこめて…
発行当時から今日まで、夢を与え続けてくれているこれらのカタログに感謝をこめて…