若干検証の足りなさは否めないのですが、とりあえずまとめたことを暫定公開し、必要があれば修正・更新をかけることにします。

 

グレコのハムバッカー 第2ステージ

U-1000 と U-2000 スーパーリアルで分化?

1979年には原産国の紛争が収束に向い、希少金属(コバルト)の供給も徐々に回復してきたようで、セラミックマグネットによる “応急処置” も痛々しかった Grecoの Uシリーズに、アルニコマグネット仕様が戻ってきました。同時に Grecoの EGシリーズは、コピーモデルの路線から、レプリカ度を高めてオリジナルを凌駕するとまで言われた「スーパーリアル」シリーズに進化したことで、これまでクロームとゴールドだけだったピックアップカバーのフィニッシュ(メッキ)に、1950年代を彷彿させるニッケルが加わりました。

これまであえて電気的な測定値には触れず、Uシリーズの外観やマテリアルによる変遷の過程をご紹介してきましたが、ここにきて初めて電気的な特性測定でもピックアップの相違点について触れてみたいと思います。なぜならこれまで同一と思われてきた U-1000とU-2000ですが、分厚い “代用セラミックマグネット” が姿を消した代わりに、1980年に入ると旧来のアルニコマグネットおよび、それと同サイズのセラミックマグネットを使用したモデルの2つの仕様が確認されるようになり、特にカバード仕様では、それを見分けることがたいへん難しくなったことが理由に挙げられます。

*測定内容

・R(直流抵抗値 )→ ピックアップのおよそのパワーやコイル巻数の大小を測ります。

・Z(インピーダンス)→ ピックアップ自体のパワーやマテリアルの傾向を測ります。

・H(インダクタンス)→ コイル巻数のおよその傾向を測ります。

この3つを測定することで、ピックアップのおよその特性を知ることができます。

あらかじめお断りしておくと、特性だけではそのピックアップの「音色」を知ることはできません。その絶妙かつ微妙な世界は、世のハンドビルダーたちの大半が測定器を使わずに自らの「耳」を頼り、製品の良否を判断していることからも裏付けられるでしょう。

下記の、外見上は殆ど相違ない2つのピックアップを U-1000と U-2000に分けた根拠

①インピーダンスの著しい違い。#201030はマグネットが導体(アルニコ系)であるため

 高く、#200603は非導体(セラミック系)であるため低い。

②インダクタンスの違い。#201030は巻線が多め。#200603は巻線が少なめ。

③ピックアップの重量差。マグネットがアルニコの方が、セラミックより若干重い。

④カタログ上の(搭載したギターの)スペック。

 

<1980年製 #200603> New U-1000 @ 私の 80年製 EG500 から

この PUは、私の 80年製 EG500 から外した検体のため、カタログ上では U-1000です。

①カバーのプレス型は従来と変りませんが、ニッケルメッキされたことと、その経年によ

 る風合いがアンティーク感を醸し出しています。写真で見ると本物の P.A.F.みたい。

②デイトスタンプによる製造年月日は、1980年6月3日(火)と確認できます。

③ワックスによるポッティングが重厚に行われ、カバーとボビン間の隙間にもたっぷりと

 含浸されています。そのため 70年代中期の U-1000と比べると、重量が増しています。

④ニッケルカバーの酸化が進んで判読が難しくなっていますが、N.O.の刻印は健在です。

・R(直流抵抗値 )→ 7.89kΩ(キロ・オーム) 重量:128g(グラム)

・Z(インピーダンス)→ 49.65kΩ(キロ・オーム)

・H(インダクタンス)→ 3.41H(ヘンリー)

 ※ ZとHは 1kHz入力時、フロントPUを測定

<1980年製 #201030> New U-2000 @ 私の 80年製 EG700 から

この PUは、私の 80年製 EG700 から外した検体のため、カタログ上では U-2000です。

①ニッケルメッキの経年による風合いが、アンティーク感を醸し出しています。

②デイトスタンプによる製造年月日は、1980年10月30日(木)と確認できます。

③ワックスによるポッティングが重厚に行われています。

④カバーの側面はニッケルカバーの酸化も少なく、N.O.の刻印が鮮明です。

・R(直流抵抗値 )→ 7.91kΩ(キロ・オーム) 重量:133g(グラム)

・Z(インピーダンス)→ 56.01kΩ(キロ・オーム)

・H(インダクタンス)→ 3.74H(ヘンリー)

 ※ ZとHは 1kHz入力時、フロントPUを測定

<1980年製 #200702> New U-1000

①ニッケルメッキの経年による風合いが、アンティーク感を醸し出しています。

②デイトスタンプによる製造年月日は、1980年7月2日(水)と確認できます。

③ワックスによるポッティングが重厚に行われています。

④カバーの側面はニッケルカバーの酸化も少なく、N.O.の刻印が鮮明です。

U-3000 & U-4000

~黎明期を彩ったフラッグシップモデルの謎~

冒頭でも述べましたが、Greco EGシリーズと MRシリーズの最上位モデルには U-4000あるいは U-3000が搭載され、その高級感を盛り上げるのに一役買っていました。

しかしこれらのフラッグシップモデルは当時の中高生たちに手の出せる価格帯ではなく、「高いから良い音なんだろうなぁ?」という想像と羨望をかきたてる程度の存在でした。

そういえば楽器店の店頭でも、EG-1500や EG-1200を見かけたことがあっただろうか?

あったところでショーケース内。試奏なんてさせてもらえなかったでしょうね(笑)。

興味深いのは、こうした「ロックギター指向のフラッグシップモデル」の影?に隠れて、実は「箱モノ」の最上位モデル。例えば Gibson L-5をコピーした L-200には U-2000が搭載されており、子供心にも何故 \200,000-もするギターに U-4000や U-3000ではなくU-2000(U-1000) なの? という疑問が芽生えたのを記憶しています。それだけ U-1000はオールマイティーなピックアップとしての基本的な完成度が高かったのでしょうね。

カタログで見る限り、U-4000と U-3000は「マグネットが特別」というのをウリにしていました。U-3000の方はアレンビック社製というのが明らかになりましたが、U-4000の方はいったいどこが特別なのか?下記の検体を見る限り、外見では変わり映えしません。

 

<1978年製 #280508> U-3000 アレンビックからの使者

①元はカバードですが、カバーは失われてありません。が、そのおかげで内部が判明!

②デイトスタンプによる製造年月日は、1978年5月8日(月)と確認できます。

 バックプレートの型名刻印を写そうとすると、光を反射するこの角度になりました。

③ボビンとベースプレート間の配置や、マグネットのサイズに至るまで、全て U-3000独

 自のレイアウトになっています。白眉なのは、アレンビック製と謳われているマグネッ

 トの配置で、何と可動ポールピース側に寄せてあり、ソリッドスラッグ側には数ミリの

 エアギャップが設けられていることです。後年 DiMarzio社が原理的には類似のエアバッ

 カーを発案していますが、この構造だと U-3000の場合、ソリッドスラッグ側の磁力が

 著しく弱められるので可動ポールピース側の出音が大きめになり、シングル寄りのクリ

 アなサウンドが得られるのではないかと(設計上で狙ったのか?)推察できます。

④ 1977年版の Greco カタログ Vol.7 より、MRシリーズ紹介(裏表紙)からの抜粋。

<1978年製 #280728> U-3000 奇跡のデッドストック

私の所有する Uシリーズの中でも白眉的な存在が、U-3000 のリプレイスメント品です。

つまりギターに搭載された物を外したのではなく、修理・交換用に単品で分売されていた未搭載・未使用のデッドストック品で、今となっては珍品の類いではないかと思います。

それにしても型番と共通説明だけで何の特徴説明も無い、クールな体裁が凄いです。

①40年近く前に作られたとは思えない、U-3000 新品の輝き! あたりまえですが(笑)。

②デイトスタンプによる製造年月日は、1978年7月28日(金)と確認できます。

 リプレイスメント用も、ギター搭載用と全く同じ生産工程だったことが分かります。

③収納されていたプラケースとラベルも残存。型番の U-3000F は、フロント(ネック)

 ポジション用を表し、ラベル下部の空白に味のある “スタンプ押し” されています。

④ラベルの裏には Greco PUの共通事項として、搭載方法とザグリの型紙。出力線の芯線

 の色分け(コンダクター)について記載されています。PU-0 の項で述べますが、Greco

 のPUで 4コンダクター(4芯)についての説明はあまり多くはなく、貴重な解説です。

<1976年製 #161220> 知られざる U-4000 唯一無二の検体

U-4000 は Uシリーズ中の最高位モデルながらその期間は短く、また搭載モデルも極めて限られていたうえに高額だったために、その実態を知ることは大変困難な存在でした。

先ずカタログに登場したのが、U-3000より1年遅れること 1976年版 Vol.5 になってからのことで、搭載機種は EG-1500 と EG-1200 というフラッグシップモデルの2機種。

翌 1977年版 Vol.6 では EG-900 ただ1機種という少なさです。 同年 Vol.7 に至ってはリプレイスメント用としてピックアップのみが紹介されるに留まり、以後姿を消します。

興味深いのは、上記のモデルに搭載された U-4000 の仕様が全て異なっていることです。

EG-1500 がゴールドカバード、EG-1200 がクロームカバード、EG-900 がリバースゼブラ という内訳で、稀にオークション等で見かけても、それがリプレイスメント用ではなくギターから取り外したものであれば、十中八九元のモデルが分かってしまうのです。

①元はカバードですが、カバーは失われてありません。ポールピースがクロームメッキさ

 れていることから、おそらく EG-1200 に搭載されていた個体と推察できます。

②デイトスタンプによる製造年月日は、1976年12月20日(月)と確認できます。

③ボビンとベースプレート間の配置や、マグネットのサイズも U-1000 と同等です。

④マグネットの右側が黒ずんでいるため、ソリッドスラッグ側のボビンを外して確認して

 みましたが、アルニコ系と思われるマグネット自体は一体のものでした。

*U-2000,UD,そして U-500 の存在とは?

U-1000 を中心に、上に U-2000。下に UD 或いは U-500 という型番が存在しました。

これらはどこが違うのか、そしてどこで見分けるのか、Greco の PU に関心を持って以来の謎というか疑問の解ける日は、ついに今日まで訪れていません。分からないままです。

私なりの解答はあります。それは「全て同じ」です。蒐集した個体は PU 単体から身元の確かなギター本体ごとまで多岐にわたりますが、出音や電気的特性(抵抗、インダクタンス、インピーダンス等)が全て一定の範囲内(公差内)であること。マテリアルが同一。

そして何よりも PU 本体に、メーカーが識別するべき記号や刻印が一切無いことです。

当初は、生産デイトスタンプの1桁目が1だったら U-1000。2だったら U-2000。という仮説を立てていたのですが、調べて行くうちに何の脈略も無かったこと。UD をはじめU-3000 や U-4000 も1桁目に1や2が使われていたことで、1桁目と型番は無関係であることが、立証されてしまいました。もし UD、U-1000、U-2000 に相違点があるとするならば、いったいメーカーの方々はどこで見分けていたのでしょうか?

※上掲のとおり、スーパーリアル期以降の U-1000と U-2000には相違点がある模様。

 

 

UD ~謎を残し怪しく消えて行った~

何回か触れたかもしれませんが、物を作るときにコストを下げる場合、数が少なければマテリアルの価格を下げる方法と、とにかく同じものを大量に生産することで、量産コストを下げる方法とが(非常に大雑把ですが)あります。ピックアップの場合、性能だけでなく外観も重要視されることから、マテリアルをケチると商品価値が下がってろくなものができないといえるでしょう。特に Gibsonのハムバッカーをコピーするとくれば、テーマが決まっているだけに、マテリアル的なコストダウンは非常に不利になると思います。

そこでもうひとつの量産コストを下げることについて考えると、とにかく標準的な仕様で性能的にも十分なものを一点に絞り込んで量産してしまえ。という方法に行きつくと思われます。これはあくまで私の仮説ですが、EG450に対して UDをいくつ。EG500に対してU-1000をいくつ、EG700に対して U-2000をいくつなどと細かい発注や仕入管理をするよりも、いっそ全部同じにしてしまった方が、生産側も発注側も大いに助かるはずです。

自分で書いておきながら UDの話に入るきっかけを失ったので、前置きはこのくらいで。

カタログでは 1977年後半から EGシリーズのエントリーモデル(いわゆる下位機種)の定番ピックアップとして登場しましたが、どの機種にも下記の謎のようなコピーが付いているだけで実態が語られていない状態が続いたまま、約4年後のスーパーリアルシリーズの終焉と同時に消えて行きました。また、パーツカタログに載ることもありませんでした。

 

<UDピックアップに用いられた怪しいコピー>

・EG用にデザインされた UDピックアップ~

・EG用 UDピックアップのパンチの効いたホットディストーションが得られる~

・ウルトラパワーの UDピックアップはパンチの効いたホットディストーションが~

・カスタムならではのクリアーで腰のある(UDピックアップの)サウンド~

 

<UDピックアップのお約束>

・EG450等、EGシリーズのエントリーモデルのみに使用され、同じギブソン系でも他のコ

 ピーモデル(SG、フライングV 等)のエントリーモデルには採用されていない。

・EG500C 等、レスポールカスタムのコピーモデルについては、同価格帯のスタンダード

 に U-1000が搭載されていても、UDが搭載されている。これはカスタムのハードウェア

 がゴールドメッキであるため、仕様と価格のバランスをとったためではなかろうか?

<1976年製 #261122>

EG450から外したものを譲り受けたので、カタログ上は UDです。しかしながらどこを見ても U-1000との相違点が見い出せません。外見は全く同じでもサウンドは違うのでしょうか? PU比較用のテストギターを製作する構想があるので、楽しみに取っておきます。

①元はカバードですが、カバーは失われてありません。

②デイトスタンプによる製造年月日は、1976年11月22日(月)と確認できます。

③角度を変えて。UDらしい特徴というものはありません。

④ボビンとベースプレート間の配置や、マグネットのサイズも U-1000 と同等です。

<1978年製 #180619>

①こちらはカバーが残って原形を留め、使用感も少なく美品状態を維持しています。

②デイトスタンプによる製造年月日は、1978年6月19日(月)と確認できます。

③カバーには N.O.の刻印もしっかりあります。U-1000 との違いは先ず見い出せません。

④UDとは直接関係ありませんが、私がピックアップの検体を保管するときには、このよう

 にタッパウェアを活用しています。密閉性があり空気中の湿気による酸化を防止できる

 こと。ピックアップどうしに間隔が保て、磁力の影響を抑えられる利点があります。