成毛滋さん、奈良史樹さん、そして数多の素晴らしき先人たちの偉業に敬意を表して。
グレコのハムバッカーたち
~U-1000 のルーツ、登場、そしてアルニコの危機~
1970年代中盤にエレキギターと出会った私にとって、Greco というブランドは、国産最大規模で発展・革新を続ける、揺るぎの無い “エレキの最強ブランド” と映っていました。
そこには故奈良史樹氏をはじめ、当時20代で発想・実行力ともに豊かな若者達を起用し、Fender Gibson の2大ブランドに追いつけ・追い越せの掛け声と熱気に満ちた、まさしく国情における高度経済成長期ともオーバーラップする、未来をも感じさせる雰囲気があったのです。毎年のように更新されるカタログを、どれだけ待ち焦がれたことでしょう。
さてそんな Grecoギターのラインナップには、数々の斬新な特徴が盛り込まれていましたが、よく採り上げられる中のひとつに、「PU(ピックアップ)に名称あるいは型番をつけた」というトピックがあります。これは、当時の本家( Fender Gibson )ですらやっていなかった(P90、P490という型番はあった)ことで、たいへん画期的な出来事でした。
そもそも「ピックアップ」という名称においても、国内で正式に起用したのは Greco ではなかったかと記憶しています。それまでは一様に「マイク」で通っており、国内最大手で世界的にも著名な某ブランドのカタログには、1980年代まで「マイク」の呼称が使われていたほどです。まぁ分かりやすい表現を優先したといえば、それまでですがね(笑)。
※)鉄絃の振動を電磁誘導で音声信号に変換する効果から「PU:ピックアップ」の名称。
それに対し、空気振動を音声信号に変換する効果から「MIC:マイクロフォニック」
いつもながら、冒頭の能書きが長すぎるのは反省します。確か 1974年頃に発行された業者向けのカタログから、本格的な仕様のピックアップが掲載されていたと記憶しています。
「ジャズ・ロックタイプ」とだけ呼称されていたピックアップに「U-1000(ULTRA-1000)」の名称がついた本格的な Gibsonスタイルの PU を登場させ、75年には U-500 を加えて2種類に。
翌76年には、U-2000、U-3000 そして U-4000
を加えて4種類(U-500 は廃番)と、瞬く間に一大ラインナップを形成するまでになりました。
ちなみにエコノミークラスのギターに装備された PU 名称だけは迷走しており、U-500 ~ハムバッキングピックアップ~ UD と変遷しています。
※)カタログが発行された年号を基準に記載。
Greco のピックアップ開発能力は素晴らしく、コピーしたギターの種類の分だけピックアップの種類もあると言っても過言ではありませんが、ここでは私を最も虜にした Gibsonスタイルの標準形ハムバッカーと、ミニハムバッカーに限定して紹介させていただきます。
他にも、同じ Gibson でもファイヤーバードスタイルや、Fenderスタイルのハムバッカーをラインナップしていましたし、GOシリーズ用にも独自のハムバッカーを開発していましたが、これらはどちらかといえば “専用形” で汎用性が低いため、除外してあります。
右の AD は「1976 楽器の本」というプレイヤー誌系のムック本に掲載されたものですが、Grecoギターのカタログでは取り上げていなかったピックアップ個々の特徴が網羅されており、当時の私は食い入るように読み返したものでした(笑)。
いま見直すと、U-4000 の \18,000-という価格は、当時とすれば輸入品に迫るもの凄く高価なプライスですね。U-1000 との差額が \8,000-というのも興味深いです。
これからじっくりと閲覧してみましょう!
*Greco(富士弦楽器製造)と Maxon(日伸音波)
PU 個々の紹介に入る前に、Grecoの PU と製造元との関係について触れたいと思います。
Greco に限らず、当時のギターメーカーは全て木工~塗装~組立が主体で、いわゆるハードウェア全般は、下記をはじめとする専業メーカーに外注していたのが実状でした。
・ペグ → ゴトーガット(群馬)、他
・フレット → 三晃製作所、他
・ピックアップ(当時) → 折井、啓陽、ゴトー(長野)、日伸音波(Maxon)、他
・ブリッジ・テイルピース → ゴトーガッド(群馬)、信越鋲螺、他
Greco では一部の高級モデルに DiMarzio 等のブランド品を採用したのを例外に、一貫して日伸音波製のピックアップを採用し続け、それは富士弦楽器製造内でピックアップの内製が開始される 1981年まで続きました。そしてその内製も日伸音波の技術指導で行われたことを鑑みると、Greco の PU = 日伸音波製 であるといっても過言ではありません。
これは同時期に Greco エレキギターと Maxon エフェクターの国内ディストリビュータを務めていた、神田商会の取り持つネットワークの一環と考えるのが妥当でしょう。
<日伸音波製ピックアップ 生産デイトスタンプのお約束>
文献によってはシリアルナンバーと記載されることもありますが、私の推測では生産日と
ロット、あるいは使用巻線機を確認することを目的に印字された表記と捉えています。
シリアルナンバーであれば、原則として同じ番号は使われないはずですからね。
1.左端1桁が管理番号(1または2)。生産年、生産月と続いて、下2桁が生産日。
2.1975年までは5桁で印字。ジャズ・ロックタイプでは、Maxon の刻印を避けて右下
に小さく。U-1000 ではバックプレート中央に太く大きな書体で印字される。
3.1976年~1977年は、1~9月が5桁。10~12月が6桁と、5桁と6桁が混在。
4.1978年~1981年は、6桁に統一され、かなり小さな書体で印字される。
5.1982年以降はモデル名がデカール表示に変更され、生産デイトスタンプは消滅。
※ この時点で Greco のピックアップは、富士弦楽器製造の内製に置き換わる。
6.1975年までの5桁時代は、0 → 10月 X → 11月 ・ → 12月 で代用。
例)下記の #12X10 は、万年カレンダー検索で 1972年11/10(金)12/10(日)と
あることから、X は11月を表すと推察できます。調べる前は、X がクリスマスを
連想させることから 12月だと思っていたのですが、ハズレました(笑)。
7.U-3000 をはじめ、バックプレート中央にモデル名の刻印がある機種では、刻印を避
けた不特定の位置(刻印の左側や下側が多い)に印字される。
8.生産デイトスタンプ以外の例外として、最初期 DRY の Z や、アルニコマグネットを
表すと思われる PU-2 の A 等の追加印字を見ることができる。
追記:左端が 8 から始まるデイトスタンプについて。
当初は試作用のナンバーかと思っていたのですが、検体を見ているうちに法則が分かってきたので、推測として述べます。8 は 1980年代に入ったことで、これまでどおりの法則でデイトスタンプを続けると 1970年代の番号と重複するため、識別用として 8 を左端に持ってきたという解釈です。つまり私の Z-DRY
#820201 は、1980年2月1日(金)の2番ラインで製作されたと結論付けると、仕様と年代の矛盾が無くなります。 2019年7月
普通、ひとつのギターに搭載されている複数のピックアップは、同ナンバーであることが確認できます。私はその組とは別に同ナンバーがスタンプされた単体ピックアップを所有しておりますので、明らかに一定のまとまった数量が同時生産された際に、ロット管理番号としてのナンバーが、そのロットの個体全数にスタンプされたものと考えています。
<日伸音波製ピックアップ Greco & Ibanez 仕様のお約束①>
*位相の設定は Fender Guitar に準じています。
富士弦楽器製造が(当時)手掛けた両ブランドのギターには Fenderタイプと Gibsonタイプが共存していたため、ピックアップの位相を統一しないと、仕様や生産に支障をきたします。そのため、日伸音波製のピックアップは全て Fenderタイプの位相に統一のうえ、納品されていました。つまり Greco や Ibanez どうしでのピックアップの互換は利きますが、Gibsonのギターに一方だけ Grecoのピックアップを付けたりすると、位相のアンマッチングを起こしてミックス時にフェイズアウトを起こしてしまうので、注意が必要です。
ピックアップ交換は魅力的かつ効果的なカスタマイズですが、電気的な事情を苦手とする方は、専門のリペアショップにご相談されることをお勧めします。
<日伸音波製ピックアップ Greco & Ibanez 仕様のお約束②>
左図は Gibson製ピックアップをはじめとする一般的なハムバッカーの構造です。
日伸音波製 Greco & Ibanez 仕様ピックアッ
プも概ねこの構造を踏襲していますが、全くのコピーに留まらず独自の変更を加えることで、より完成度を高めています。
1.スペーサーの追加
ポールピースホルダー側にも細いスペー
サーを追加しています。これはボビンを
より水平に安定させる効果を狙ったもの
と思われます。下記 #14614 参照
2.出力線穴の増設
1979年以降になると、フロント・リア用
のそれぞれ適した位置に出力線の出口が
来るよう、ベースプレートに出力線用の
穴が増設されるようになりました。
<参考画像:1975年製 Gibson P-490 ナンバード(刻印タイプ)>
①双方のボビン中央に T の刻印がある、通称「Tバッカー」
②ベースプレートはジャーマンシルバー(洋白)製。
写真では見えにくいですが、中央にパテントナンバーが刻印されています。
以前の仕様では、パテントナンバーは P.A.F. のようにデカールで貼られていました。
③カバーを戻した外観。この検体は、私の Les Paul Custom から外したものです。
④ P.A.F. の仕様とは異なり、ベースプレート両端に同サイズのスペーサーが挟み込まれ
ています。U-1000との類似点が多く、この仕様を参考に製作されたと思われます。
ジャズ・ロックタイプマイク
~ U-1000 の登場前夜を支えた国産ハムバッカーの嚆矢~
U-1000 が発表される前の時代のカタログには「ジャズ・ロックタイプマイク」の記載で紹介され、U-1000 の登場以降も、ロープライスモデルには 「ハムバッキングマイク」の名称で 1976年頃まで採用されていました。その後は、UD(後述)が受け継いでいます。
写真は 1976年製 SG-360 に搭載されているもので、前述のとおり製品に採用された時期としては最晩年になります。サウンドは良く言えば「暖かく穏やか」。性能的に問題があるわけではないので、使い手がこの原音を気に入りさえすれば、現代でも十分通用する可能性があると言っておきましょう。故成毛滋氏も U-1000の登場までは使いこなしておられましたし。まぁピックアップ全般に言えることではありますけれどね(笑)。
Greco 以外のエレキギターでは、Gaban(あの伝説の)に搭載されていましたっけ…
<ジャズ・ロックタイプマイク:小さな部位と共通項>
左:リア(ブリッジ側)の OUTPUT ケーブルは、アセンブリへの便宜でベースプレート
の右下の穴から出ているだけではなく、キャビティ内の配線作業への識別用に先端を
赤いマーカーで着色されています。これは、日伸音波製のピックアップのほぼ全てに
見られる特徴で、U-1000 以降に採用された本場 Gibson 仕様のアミ線ケーブルにも
踏襲されています。また Greco 以外の供給先ブランドのギターでも確認できます。
※)一部の例外はあります。
右:マウントビスには、旧規格(旧JIS) 3mm径のナベネジが採用されています。※
一般のホームセンター等で売られているユニクロームメッキではなく、クロームメッ
キされた専用品のようで、耐候性はユニクロームより若干劣るようです。
U-1000 以降は 小頭化された現行規格 3mm のナベネジで、更に特殊化が進みます。
この 3mm径のマウントビスも、日伸音波製ピックアップのほぼ全てに見られる仕様
で、他の国産メーカーは、一様に 2.6mm径をスタンダードにしています。
※)同じ3mmでも、現行規格と旧規格のネジは互換が効かないのでご注意ください。
<1972年製 #12X10>
私が所有する検体としては、最も古い生産デイトスタンプを印字された個体です。
ピックアップ単体で入手したことで搭載されていたギターは不明ですが、ポールピースにゴールドメッキの痕跡が見られることで、比較的上位の機種に搭載されたと思われます。
①外見上の特徴として、可動式ポールピースの頭頂部がフラットになっています。
かなりイイ線までは行っていますが、未だ “ドンズバ Gibson ” の域ではありません。
②ベースプレートはブラス(真鍮)製。カバーやポールピースの固着にはゴム系接着剤
が使用されていますが、経年劣化を起こし若干収縮が見られます。また右側の穴から
OUTPUT ケーブルが出ていることで、リア(ブリッジ側)にマウントされていたこと
が分かります。ポールピース自体も、Gibson の仕様に比べてかなり太めです。
③デイトスタンプによる製造年月日は、1972年11月10日(金)と確認できます。
ベースプレートの酸化でたいへん確認しづらいですが、Maxon の刻印があります。
④カバーのどちら側を見ても U-1000 以降に見られる N.O. の刻印は見当たりません。
これはベースプレートに Maxon の刻印があることによるためと思われます。
<1974年製 #24302>
上掲のほぼ1年半後に生産された検体ですが、特に変ったところは見当たりません。
しばらくすると U-1000 の登場によって、下位のモデル用に格下げされてしまう運命が
待ち受けていることが、少し可哀想です。
①耐久性の高いクロームメッキ仕上げのため、40年以上経っても比較的きれいです。
② OUTPUT ケーブルの位置で、フロント(ネック側)仕様であることが分かります。
③デイトスタンプによる製造年月日は、1974年3月2日(土)と確認できます。
この時代は、未だ週休二日制じゃなかったんですね(苦笑)。
④こちらのカバーにも U-1000 以降に見られる N.O. の刻印は見当たりません。
<生産年月日不詳>
前オーナーが Maxon の刻印を鮮明にさせたかったのか、バックプレートの中央部を研磨してしまったことで、残念ながら生産デイトスタンプの印字も消えてしまっています。
おかげで? Maxon の刻印の形状は鮮明に確認できることと、セットで入手したことで、上掲の検体には見られなかった特徴を確認することができました。
この検体では、フロント(ネック側)とリア(ブリッジ側)用とでの OUTPUT ケーブルの出方の違い以外に、ケーブルの色(グレーと黒)を変えてあることが確認できます。
そのためリア用ケーブルの先端に見られた先端部の赤い着色は、オミットされています。
U-1000 がいっぱい!
~私の所蔵品で辿る仕様の変遷~
Greco の範囲に留めるよりも、国産初の本格ハムバッキング・ピックアップと称しても過言ではないと思います。オリジナル(Gibson製)に比肩する性能、当時のオリジナルには無かった “商品名:ULTRA-1000” 。どれをとっても当時の Greco が放っていた世界への強烈なエネルギーとメッセージが感じられます。それに感化された一人が私でした。
変遷として追えるのは 1974年~1981年くらいの僅か7年程に過ぎませんが、製造上で求められた仕様変更に加え、消費者ニーズ、世情なども伺える興味深い点は見逃せません。
<1974年製 #14614>
U-1000 としては最初期にあたる、1974年の仕様です。カバーが失われているのが残念ですが、おかげで内部の様子を知ることができます。
形状から見ると、同年代の Gibson P-490(ナンバード・オリジナルハムバッカー)を忠実にコピーしていることが、ボビンの形状やマグネットのサイズからうかがい知れます。
一説には 1959年製 P.A.F. の検体を研究した結果から製作されたとも言われていますが、
現物を見る限り、少なくとも外観やマグネットのサイズには P.A.F. の面影はありません。
Maxon のデカールもナンバードに倣ったものでしょうが、以降は見られなくなります。
Gibson P-490 の仕様は随所に反映され、ベースプレート → ジャーマンシルバー(洋白)OUTPUTケーブル → アミ線にしたのをはじめ、ジャズ・ロックタイプではアセンブリへの配慮と思われた、OUTPUTケーブルの出方まで Gibson流に統一されてしまいました。
ギター本体の完コピが成熟する6年も前に、既にピックアップの完コピは達成されていたのですから、これは驚きです。肝心のサウンドの方も、あくまでも好みの問題ではありますが、オリジナルに比肩する出来栄えと言っても過言ではないでしょう。
本家 Gibson同様、この時代はまだポッティング(ワックス含浸)が行われていません。そのため、個々のパーツの材質や組み込みの様子を、詳細に確認することができます。
①ボビンはダブルブラック。元はカバードですが、カバーは失われてありません。
ダブルブラックなので「グネコプレス」カバーだった可能性があります。惜しい!
②最初期にのみ貼られた「Maxon」のデカールが、完全に残った貴重な個体です。
おそらくサンプルにした、Gibson「ナンバード」の仕様を模したものでしょう。
またデイトスタンプによる製造年月日は、1974年6月14日(金)と確認できます。
③日伸音波製 U-1000 の特徴である、非対称なダブル・スペーサーを確認できます。
左側の出力線とポールピースホルダーに挟まれた、3.3×3.3mm の角材を加えること
で、ボビンがほぼ水平に保たれています。この時代にしてこれだけの完成度は驚嘆に
値するでしょう。右側のスペーサーは合板で、特殊な寸法ゆえの特製品でしょうか?
④マウントビスには丸皿ネジが使われているので、おそらくラージピックガードの SG
タイプ(型番不詳)に搭載されていたであろうことが、推測できます。
<1974年製 #24716>
①オリジナルに見られた “ゼブラ” を模した U-1000。プラス・アルファの装備として、
トップのみをカットした「セミ・オープン」のカバーを装着しています。
これはノイズ対策と、ピッキングや絃の巻き込み等による、コイルの断線を防止する
効果を有したと思われます。後年、YAMAHA のピックアップにも採用されましたね。
余談ですが、オリジナルの “ゼブラ” は可動ポールピース側がブラックなので、これは
“リバース・ゼブラ” ということになります。理由があったのか無かったのか…
当時の機種としては、EG-650S や EG-650N 等に採用されていました。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1974年7月16日(火)と確認できます。
Maxon のデカールは表面が摩滅して、そこにあった痕跡だけが残っています。
③露出した地金の様子から、材質はブラス(真鍮)と思われます。ジャーマンシルバー
(洋白)では硬すぎて、おそらくこのようなプレスを行うと、割れてしまうと思われ
ます。ブラックは焼付塗装と思われ、後年の “ブラックメッキ” ではないようです。
④ N.O. の刻印は確認できません。標準のカバーとはプレス型がちがうためでしょう。
<1974年製 #14803> これぞ決定版!「U-1000 グネコプレス」
①この時代を象徴する「グネコプレス」もばっちりな仕様で、しかもセット!
②ベースプレートの腐食が残念ですが、「Maxon」のデカールが完全に残っています。
またデイトスタンプによる製造年月日は、1974年8月3日(土)と確認できます。
③いいですねぇ… これだけでも絵になります。Gibsonの真似なんですけれどね。
④ N.O. の刻印は鮮明に確認できますが、片方にはんだ付のヤニが付着していて残念。
別の個体からですが、カバー裏側の様子もご紹介。F の字を書いたのは前オーナーです。
薄い割にタイトなプレスが行われたせいか、(可動)ポールピース側のボビンが、カバー裏面に密着した跡が残っています。
ジョークで Z-DRY に被せて使っちゃおうかと思ったこともありましたが、そこは真摯なGrecoファン?だったらしちゃいけないなぁと思い留まり、今日に至りました(笑)。
<1975年製 #25412> その1:セット
① “未開封” 状態で残った「カバード」と、上面の塗装のみが剥げた「セミ・オープン」
のセット。当時の機種としては、EG-480 等に採用されていた組み合わせです。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1975年4月12日(土)と確認できます。
Maxon のデカールはオミットされ、バックプレートの表情が寂しくなりました。
③「カバード」の方には、N.O. の刻印が確認できます。
④「セミ・オープン」の方は、#24716 同様に N.O. の刻印が確認できません。
<1975年製 #25412> その2:単品
なんと所有する U-1000の中に「同デイトスタンプ」が存在しました。特にセミオープンの個体を比較すると、25と412の微妙なずれ具合までほぼ一致することから、同月同日の同じラインで生産された個体に間違いありません。デイトスタンプを裏付ける検体です。
40年以上の歳月を経て再び巡り合ったことで、彼らもきっと驚いていることでしょう。
①「セミ・オープン」のカバーを装着したダブルホワイツです。これも “未開封” 。
②残念ながら上掲のセットに比べ、バックプレートの劣化(酸化)が進んでいます。
③コーナーにやや剥がれがありますが、比較的カバーの黒色がきれいに残っています。
④こちらも #24716 同様に N.O. の刻印は確認できません。
<1975年製 #15.08>
①たいへん状態が良好な個体で、しかもセット。決して Gibson製に見劣りしません。
②この個体では、テイルピース・スタッドからのアース線が、ベースプレート中央部に
はんだ付けされていました。1975年以降の一部の機種に見られる仕様です。
またデイトスタンプによる製造年月日は、1975年12月8日(月)と確認できます。
③リア(ブリッジ側)用では、 OUTPUTケーブルの先端が赤いマーカーで着色されてい
ます。
④ N.O. の刻印が鮮明に確認でき、まだカバーのプレス型が新しいことが分かります。
<1976年製 #26128>
①元はカバードです。前オーナーが一旦外していたらしく、カバーは被せてあるだけ。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1976年1月28日(水)と太字で確認できます。
③中のボビンはなんとダブルホワイツ。この時代では EG-480 等の装備で見ることがで
きますが、その場合はセミオープンなので、カバードの仕様は珍しいと思われます。
④カバーのおかげで汚れが入り込んでおらず、マグネット等の様子がよく分かります。
せっかくなので、カバーの裏側もパチリ。
研磨こそされていませんが、裏面までメッキが廻っており、ジャーマンシルバー(洋白)の地金は露出していません。
カバーの厚みは薄く、これ以上薄くするとペラペラになってしまう寸止めのような感じ。
厚みといいエッジのシャープさといい、当時(70年代中頃)のオリジナルを凌駕していると言うと、褒め過ぎでしょうか?
<1976年製 #161206>
①これも元はカバードですが、カバーは失われてありません。
ボビンはこちらもダブルホワイツ。元はセミオープンの可能性がありますね。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1976年12月6日(月)と6桁で確認できます。
消えかかって写真だと判読は難しいですが、現物は光の加減で何とか判読可能です。
③スペーサーに使われている木材はまちまちで端材を加工して活用したと思われます。
④ポールピースの可動側と非可動側とでは、スペーサーの長さにちがいがあります。
<1977年製 #17714>
①カバードで原形を良好に保っています。カバートップへの傷も殆ど見られません。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1977年7月14日(木)と5桁で確認できます。
③カバーのコーナーや裾からの絞り込みなど、プレス成型された形状が確認できます。
④ N.O.の刻印は、ソリッドスラッグ側の側面の裾中央が定位置とされていますね。
<1977年製 #27917>
①カバードですが、前オーナーが一旦外していたらしく、カバーは被せてあるだけ。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1977年9月17日(土)と5桁で確認できます。
③ボビンはダブルブラック。カバー内にもメッキが廻っていますが、ムラがあります。
④カバーのおかげで汚れが入り込んでおらず、マグネット等の様子がよく分かります。
<1978年製 #180622>
①セミオープンのダブルブラックで、カバーは被せてあるだけ。この時代では EG-600P
等の装備で見ることができます。ケーブルには普通のシールド線が使われています。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1978年6月22日(木)と確認できます。
③カバーの内部。ブラス製で、吹付塗装により着色されていることがわかります。
④なんとセミオープンのカバーですが、N.O.の刻印を確認。型が変ったのでしょうか?
<1978年製 #181027>
1974年製から4年間分の U-1000 の変遷を追ってきましたが、スタンプ等の表示の違いこそあれ、本質的に大きく変ることはありませんでした。この穏やかな状態は長くは続かず、1978年から1981年の日伸音波製の終焉までは毎年のように変更が繰り返されます。
①オープンのダブルホワイツで、ケーブルには普通のシールド線が使われています。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1978年10月27日(金)と確認できます。
③美しく巻かれたアセテート製の保護テープ。ポールピースはゴールドメッキですね。
④オリジナル・フルオープンの端正な姿をパチリ。DiMarzio PAF と間違えそう…
<1978年製 #281116>セラミックマグネット
先の検体から僅か半月の間に、U-1000 には驚くべき仕様変更が行われていました。
おそらくはアルニコ系マグネットの入手難に伴う、セラミックマグネットの採用です。
この仕様変更は全く予告なく、また変更後も文面に表されることはありませんでした。
※ 同時期の PU-2 においても確認され、Grecoハムバッカーの大半に及びました。
①元はカバードですが、カバーは失われてありません。上は #181027 です。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1978年11月16日(木)と確認できます。
③これまでのアルニコ系マグネットに代って、分厚いセラミックマグネットが使用され
ており、それに合わせてスペーサーの寸法も変更されていることが分かります。
ポールピースはソリッドスラッグとともに、そのままの規格が使われています。
④先述の #181027 と比較すると、3mm 程厚さが増しています。
☆トピック ~地域紛争に伴うアルニコの高騰~
正確には、アルニコマグネットの原料となるコバルトが、1978年に起きた原産国の紛争(第二次シャバ紛争)によって世界的に入手難となり、およそ5倍にも高騰してしまうという出来事がありました。それにより、アルニコマグネットを多用していたスピーカー等は、大幅にセラミックマグネット(フェライト)へのコンバートを余儀なくされました。
エレキギターのピックアップに使用されるアルニコマグネットの使用量は、スピーカーに比べれば僅かですが、同様に原料高騰の影響を受け、回復までに1年近くを要しました。
<1978年製 #181227>セラミックマグネット
①オープンのダブルホワイツで、ケーブルには普通のシールド線が使われています。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1978年12月27日(水)と確認できます。
ほぼ仕事納めの時期ですね。お疲れさまでした。
③この角度では、セラミックマグネットで仕様が大きく変っているのは分かりません。
④保護のテーピングにより内容は見えませんが、厚さからセラミックマグネット仕様で
あることが分かります。先述の #181027 と比較すると、テープが巻き足されている
部分(ボビンとベースプレート間)に、くびれが生じるほどかさ上げされています。
<1979年製 #190606>セラミックマグネット
①元はカバードですが、カバーは失われてありません。
②デイトスタンプによる製造年月日は、1979年6月6日(水)と確認できます。
何故かラベルに押されたデイトスタンプが貼られているといった、変った仕様です。
ボビンを固定するネジに、うっすらとポッティングのワックス付着が確認できます。
③先の #281116 とレイアウト的な違いはありませんが、スペーサーにワックスが沁み
込んで、しっとりした色合になっているのが分かります。またソリッドスラッグ側の
保護テープが白い縁取りになっているのには、何か意図があるのでしょうか?
④デイトスタンプの押されたラベルの下には “Super70” の刻印が隠されていました。
ピックアップ自体の転用か、ベースプレートのみの転用であるのかは分かりません。
Greco U-1000 と Ibanez Super70 は、刻印以外基本的に同一の仕様なのでしょう。
☆トピック ~カタログには 1987年まで残留~
1981年頃に登場した Screamin' は、当初 定価 70,000円以上の上級機に採用されていましたが、徐々に低価格機種にも搭載範囲を拡げ、数年後には 30,000円代のギターにまで搭載されるようになってしまいました。これは決して Screamin' が粗製乱造されてしまった結果からではなく、元々が希少なマテリアルを使用していない仕様であるがために、量産効果が最も発揮できたピックアップであったためと、私は思っています。
U-1000 が搭載されたギターは年々減少を続け、1981年版カタログでは僅か数機種のみ。
巻末のパーツリストからは既に割愛されてしまっています。1982年のミントコレクション発足時には、あれだけ幅を利かせた EGシリーズにおいても1機種も搭載がありません。
既に普及機種帯への採用は Screamin' に取って代られたと思い、半ば U-1000を忘れかけていた矢先、いきなり 1987年版カタログのパーツリストに登場した時には驚きました。
この時期、かってのボリュームは失せましたが、ミントコレクションは未だ存続中。
しかし U-1000(U-2000)を搭載した機種は何ひとつ残っていないなか、何故ここで再掲載されたのかが分かりません。ピックアップの生産が日伸音波から富士弦楽器製造の内製に移行された時点(1982年)で、U-1000の生産はほぼ打ち切られたものと思っていましたから。
おそらくパーツのストックとしては、未だかなりの数量を在庫していたのでしょう。
そのうえ当時の現行品から搭載機種が一掃されてしまうと全く需要が無くなり、デッドストック化してしまう可能性が出てきたことから、U-1000 をパーツリストに復活掲載させたのでは? と、これは私の憶測です。ここに UD や U-2000が出てこないことにこそ、これらの品名の正体が隠されているのかもしれませんね。ちょっと意地悪でしょうか?
ちなみにカタログで使われた写真は、X-TRAと全く同じ(焼き増し)なので、当時の外観を知る参考にはなりません。よくあることです(笑)。